呉明憲コンサルタントの中国ビジネス日記

名義借り

 今までいろんな案件を経験してきましたが、思い出深いというよりも印象深い案件がいくつかあります。そのうちの一つで名義借り案件の清算について紹介したいと思います。

 

 名義借りとはその名の通り誰かの名義を借りて会社を興すものですが、いまどきはあまり聞きませんが、以前だと外資に対する資本金要求が結構うるさく、それを回避するために中国人名義で会社を興しているケースがありました。おそらく以前興した会社で今でも名義借りのまま運営しているところも残っているでしょう。今では会社法が割ときっちりと運用されていますので、外資であっても小さい資本金の会社は設立できるようになっています。例えば私の記憶しているケースでは資本金12000米ドルなんていうのもありました。内資にした場合外資と比べて資本金要求が甘いというのはなくなってきましたが、メリットがあるとすれば経営範囲が内資の方が外資と比べて管理が緩いというのがあるでしょう。ただし、名義借りはあくまで名義借り、トラぶった場合権利関係を証明するのが大変です。2011年1月27日付で「最高人民法院:《中華人民共和国公司法》の適用の若干問題に関する規定(三)」(法釈〔2011〕3号)というものが公布され、その中で「前項既定の実際出資人と名義株主が投資権益の帰属で争議が発生し、実際出資人がその実際に履行した出資義務を理由に名義株主に権利を主張する場合、人民法院は支持しなければならない。名義株主は会社株主名簿への記載を以って、会社登記機関への時を理由に実際出資人の権利を否認する場合、人民法院は支持しない。」という文言があるように、真の出資者の権利は認められるという考え方が既にあります。しかしながら、既述の通り、これを証明する必要がありますし、証明できるとしても解決までには相応に時間を要することが十分に考えられます。

 

 名義借りではあっても業績が順調で、真の出資者も利益を得ることができていればトラブルになることもないのでしょうが、業績が傾いてくるとそうはいかなくなってきます。私が経験したのはこの規定が公布されるよりも前に起こったケースです。

 

 とにかく名義借り会社の業績がどうしょうもなく、このまま続けていても資金繰りが悪化するだけで、将来的な展望も見えない状況になってきました。日本側としてはこのまま続けていても先が見えず、また取引先にも迷惑をかけることになってしまうので早く手じまいをしたいという意向でした。ところが、名義上の法定代表人がそれを認めず、真の出資者と名義上の出資者との話し合いが行われ、私がその間を取り持つような格好になりました。日本側はとにかく取引先に迷惑をかけるわけにはいかないという考え方を持っていました。それもそのはず、取引先というのは日本本社の取引先の子会社であるケースが多く、ここで不義理をすると日本側の取引に影響してきます。なので、払うべきものは払ってしまいたい、いわば損切りしてもいいという意向を持っていました。もちろん、損切りした後は名義借り会社との関係は断つ必要があります。話し合いの内容自体はシンプルなものでしたが、名義上の出資者がとにかく泣いてわめいてという状態で、落ち着いた議論になりません。何度か話し合いの場を持ちましたが、最終的にはある程度強引に進めるのもやむなしという結論に至り、債務については日本側が債務譲渡を受けて代わりに支払いを行い、それと同時に形式的には出資関係のない名義借り会社と日本側は今後全く関係なくなる旨の通知書を取引先に一斉に送付しました。そのあと名義借り会社がどうなろうが、日本側が真の出資分を取り返すのを放棄したこともあり(そもそも取り返すだけの資力が形式上の出資者にない)、あとはもう関係ない会社の話です。関係ない会社であることを取引先にも伝えることを目的に通知書を送ったわけですから。

 

 このような形で終焉を迎えた名義借り案件ですが、中にはいまだに名義借りでビジネスを行おうとする人もいます。もちろん、夫婦や親族であればいいとは思いますが、完全な第三者の名義を借りてビジネスを行うのをよしと考える、あるいは勧めるような人がいまだにいます(そういえば親戚は親せきでややこしいと言っている人もいました)。名義借りで儲かったとしてもその儲けが小さければ銀行で人民元から円に両替してということもできますが、ビジネスの規模が大きくなるとそれもできないでしょうし、儲かったら儲かったで形式上の出資者が急に権利を主張し始めるようになるかもしれません。まあ、人によって考え方も違いますので、それでも名義借りを選択するという人もいるでしょうが、なにせ目の前でトラブル案件を見たこともあり個人的には乗れません。私が起業した時も、「外資の会社を設立するのはめんどくさいので誰かの名義を借りて内資でやればよかったのに」と言っていた人もいましたが、そもそもコンサルティング会社の設立自体大して面倒な話でもなく(結局は持分譲渡で買い取る形にしましたが)、外資で設立するために内資と比べて余分にかかる時間差での機会損失も大してあるわけでもなく、総合的に考えてやっぱり名義借りは乗れないです。単なる合弁会社でももめ始めるとそれを収集するのは大変です。名義借りの場合は真の出資者であることを証明する作業が入ってきますのでもっと大変かと思います。ということですので、名義借りでビジネスを行うのであればそれ相応に覚悟して行う必要があるといえるでしょう。a


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