2018-05-31

中国従業員解雇交渉の現場 ~その5(最終回)

従業員解雇交渉の現場 ~その1~ はこちら

従業員解雇交渉の現場 ~その2~ はこちら

従業員解雇交渉の現場 ~その3~ はこちら

従業員解雇交渉の現場 ~その4~ はこちら

 日本側から依頼を受けた期限の3月31日がやってきた。この時点で残り二人の従業員との交渉は妥結しておらず。お金が欲しかったらそっちから連絡してきたらいいというスタンスで構えて放置していたので、特に交渉もしなかった。実はこの会社、いまどきまだ派遣会社から社員の派遣を受けるというスタイルをとっていたこともあり、私は従業員を放置しつつも、その間派遣会社とは打ち合わせしており、派遣会社の希望もあり3月31日付で派遣された社員を派遣会社につき返すという方針で進めようということが決まっていた。「会社の規章制度を守らない(娘さんのお店に対する嫌がらせという社会道徳に反する行為を行った)、職務を執行せず(メールでの支持を受けないと明言)会社に損害を与えた」という理由で派遣会社につき返したのである。派遣会社に対してはもちろん娘さんの店に嫌がらせをしたことも説明。これで会社と残り2人の社員との関係は切れたも同然。無責任なようであるが、今後従業員は不満があれば派遣会社とやり取りすればよい、それを狙って突き返したのだ。派遣会社も同じようなケースは何度も遭遇しているようで、それは困ると言いながらしょうがないなあという反応であった。この日に男のほうからは連絡があったが、銀行口座が既に差し押さえられてしまったので、金額がいくらであれもう支払うことはできないと説明した。だからあの時に妥結しておけばよかったものを。たかだか0.8万元にこだわって4.2万元をふいにしてしまうとは。アホとしか思えん。この件について一番最初に交渉妥結したリーダー格の人とやり取りがあった。

「彼はもう1元ももらえへんよ」

「何を考えているかよくわからなかったが、なんとなくかわいそう」

「今妥結しとかないと1元ももらえなくなるかもしれないって、俺はちゃんと説明してたやろ?」

「してた」

「そのリスクを彼は取ったのだからしょうがない。」

「確かに」

 哀れといえば哀れだが、小さなことにこだわって4.2万元をふいにしたのは本当にアホとしか言いようがない。

 さて、その後この二人の従業員は会社に対して労働仲裁を申し立ててきた。仲裁庭からは誰が出席するのか聞いてきたが、だれも出席しないこと、そもそもこの二人の従業員は派遣会社に突き返したのでもう会社とは関係ないこと、会社に関係があるとしても会社の銀行口座はすでに債権者より差し押さえられており、仮に仲裁の結果が会社は二人の従業員に対して支払うべきというものであったとしても支払いようがないこと、法定代表人も中国にいないので追いかけようがないこと、なのでこんな仲裁をやっても意味がないと二人に伝えてくれと仲裁庭の人に伝えたのだが、「そんなこと私の立場からは言えない」ってさ。まあ、そりゃそうか。

 このほか、債権者が債権取り立てのための提訴をしたりしてきたが、そのあたりはちゃんと相手の弁護士に状況を説明し、事務手続きだけは協力し、こちらとしてはこの案件はいちおう終結した。

 この案件を通じて一つ気になった言葉がある。以前携わった会社清算の時にやはり解雇にあたっての経済補償金の交渉をしたことがあったのだが、その時にある従業員が言った一言を思い出した。

「我对这家公司有感情」(私はこの会社に対して思い入れがある)

なんとも美しい言葉なのだが、これを言った従業員はちょっとややこしい人だったのを思い題した。そして今回の案件でも全く同じことがを聞いた。言ってきたのは財務責任者だ。これから同じような話があった時、このフレーズには要注意だな。(終わり)

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