不正取引に伴う巨額損失:事例から学ぶ企業ガバナンスの限界

2025年に入ったところで、2024年の注目事件を振り返ろうと思います。毎年年末の時期になると「今年の10大ニュース」などというワードが出てくるようになります。去年でいえばドンファン事件とか、兵庫県知事に騒動なんかもかなり話題になりましたが、企業がらみでいえば三菱UFJ銀行貸金庫事件、少し前だと野村証券元社員の強盗殺人未遂事件なんかがありました。 規模の大きな不祥事にどんなものがあったのかなあと振り返った時、思い出す事件があります。


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規模の大きな不祥事を振り返ってみる

大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件

1983年、アメリカでマツダ自動車のディーラー営業を経て大和銀行ニューヨーク支店に採用された井口俊英は、変動金利債権の取引で5万ドルの損失を出しました。損失が発覚して解雇されることを恐れた井口は、簿外取引を行い損失を隠蔽しつつ、書類を偽造して利益を出しているように見せかけました。同支店の管理体制の不備もあって不正は12年間発覚せず、損失は最終的に11億ドル(約1100億円)に達しました。

井口は膨大な負債を処理しようとしてさらに大きな取引を行ったものの、思い通りにはならず、日に日に損失が膨らんでいってしまったというものです。大和銀行の事件は当事者の井口俊英が書いた『告白』という手記本を読んだのですが、こんなのが自分の身に起こったら毎日毎日胃がキリキリして体が持たないのではないかと思うような内容でした。


住友商事銅取引巨額損失事件

これは1996年に発覚した大規模な不正取引事件です。当時の住友商事非鉄金属部長の男性社員が、長期間にわたって無許可取引を行い、同社に18億ドルの損失をもたらしたもの。この男性社員も大和銀行の井口氏と同じく損失を回収しようと試みたのですが、思い通りの運用ができないままに不正が露見し、最終的に同社の損失は26億ドルに達したというものです。こちらの事件は金融史上最大規模のの取引損失の一つといえるでしょう。

この二つの事件に共通しているのが、最初はちょっとした損失だったのが、それを取り戻そうとしているうちにどんどん損失が膨れ上がり、どうしようもない金額になったというものです。


ここまでの金額ではないのですが、中国においても同じような事件が発生しました。これは去年のことです。

三菱商事の中国銅取引不正事件

場所は上海。三菱商事金属貿易(中国)有限公司で発生した事件です。実は中国の報道で見るまで知らなかったのですが、日本でも報道されていた事件です。

三菱商事、中国の銅不正取引疑惑で138億円の損失計上

三菱商事が2024年11月1日に発表した四半期報告書によりますと、同社の鉱物資源事業の2024年9月30日までの6カ月間(いわゆる上期)の「中国取引事業損失」は138億円(約9152万ドル)に達したとのこと。この「中国取引事業損失」がまさに不正取引により生じた損失であります。

三菱商事金属貿易(中国)有限公司の銅トレーダーであった龔華勇は無許可取引(自分と関係のある会社も含む)を通じて約1.1億米ドルの損失を計上してしまったものです。当然ですがすでに解雇されており、警視訴訟が提起されているようです。この事件が発覚したのは、一部の顧客において取引の決済ができなかったり、支払いが遅れたところがあったことがきっかけだったようです。先に紹介した2つの事件ほどではないですが、1.1億米ドルだってかなりの金額です。当たり前の話ですが、再発の防止に向けた取り組みを行うということになろうかと思います。しかしながら、この手の事件ってなかなかなくならないということは、再発防止策をいくら講じてもその気になればまた出来てしまうからではないでしょうか。


中国関連の不正に関する調査報告書を読んで思ったこと

インターネットで「不正」、「第三者委員会」、「報告書」というキーワードで検索するとちらほらそれらしき報告書を見つけることができます。このブログを読んでいる人は中国ビジネスに携わっている人がメインなので、さらに「中国」というキーワードを追加すると中国関連の不正に関する第三者委員会による調査報告書を見つけることができます。結構出てきます。ボリュームもかなりあり、あれもこれも読むのも大変なので、興味深い事例だけ読めばいいかと思います。

私がこのような報告書をいくつか読んで思ったのは、「いくら再発防止策を打ったとしても、完全に防ぐことは難しい」という感想です。

  • 現地法人は子会社であり、本社と違って目が届きにくいこと
  • そもそも現地法人内での職位の高い人による不正が多い(もみ消しやすい)こと
  • 悪意を持って不正することを完全に防ぐことはかなり難しいと言わざるを得ないこと

といったあたりでしょうか。こんな報告書が作成されるほどではないレベルの小さな不正はかなりの数に上るのではないでしょうか。


再発防止のために企業が選ぶ現場のリーダーとは?

再発防止のための社内ルールをがんじがらめにするのも一つの方法ではありますが、あまりに厳しくしてしまうと動きづらくなってしまうことは否めません。程よい厳しさが最も適切なのでしょうが、それだと今までとそんなに変わらないように思います。となると、そもそもそういうことをしない人を派遣しない、そういうことをしない人を雇用する、ということになります。そういうことをしない人としては二種類いるかと思います。

  • 仕事に対してまじめで正義感が強い人
  • 悪いことはしなさそうだという理由だけで派遣されている、雇用されているような人

の二種類かと思います。業務的には前者がいいに決まっているのですが、中には後者(悪いことはしなさそうだ)のタイプが派遣、あるいは雇用されるケースもあります。そのタイプは「悪いことはしない」のですが、「前に進むようなこと」もしないタイプで、「会社のためにこういう新しいビジネスをしたい!」などと貴重な前向きな考え方に対して、とにかくあら捜しをし、「何もしないこと」が正義と思ってる人もいます。後者のタイプの駐在員を派遣する会社はわざわざ海外現地法人まで設立して何をしたいのかよくわかりませんが、感覚的には決して少なくないように思います。


これを読んでいる皆さんは前者の「仕事に対してまじめで正義感が強い人」であってほしいと思いますし、私としてもそういう人たちと多く知り合い、いろんなことを吸収し、自分自身の業務に役立てていきたいと思います。


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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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