中国EV・スマートカー市場の変化と外資Tier1の動き

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中国における外資Tier1の動き

11月に入ってから外資Tier1企業の中国で動きがいくつかみられます。

  • マグナ(麦格納):安徽省芜あ湖に新工場を設立
  • Valeo(法雷奥):温岭工場の拡張プロジェクトが稼働開始
  • OPmobility:中国延鋒集団との合弁会社の事業範囲を拡大
  • シェフラー(舎弗勒):嘉定氫能港と戦略協定を締結
  • ネクステア(耐世特):蘇州にアジア太平洋地域のスマート製造本部を着工
  • アプティブ(安波福):武漢に新工場プロジェクトを発表

中国の景気が良くないといろいろ言われてますが、それでもこれだけの動きがみられるというのは中国市場の圧倒的な規模と成長スピードがあるのは否めないでしょう。

中国における新エネルギー車販売量

2025年1〜10月の中国自動車市場は、生産・販売ともに約2,770万台、前年比で二桁成長。特にEV(新エネルギー車)は1,300万台超、前年比30%以上の伸びとなっています。さらに、レベル2(部分運転自動化)以上の自動運転機能搭載車の普及率は60%を超え、スマート化の波が急速に広がっています。こうした数字を見ると、外資Tier1が中国市場を「戦略の中心」に持ってくるのもわかります。単なる製造拠点ではなく、技術検証・市場適応・グローバル展開の起点としての価値も高まってきているといえます。

以下は2021年以降の新エネルギー車販売量の月次推移です。単純月次推移と、年度別月次推移と両方作成してみました。これにより月ごとの比較もしやすいかと思います。

参考元:中国汽車工業協会 作成:TNCリサーチ&コンサルティング
参考元:中国汽車工業協会 作成:TNCリサーチ&コンサルティング

うらやましい限りの業界の成長ぶりです。この表だけを見れば中国の景気が良くないとは言えなくなるのですが、なぜいかよくないという声が多い、ここを突き詰めていくのも面白そうですね。

生産体制の強化と本土化戦略

Magna International Inc.(マグナ・インターナショナル)

・マグナは芜湖に新工場を設立し、EV向け電動駆動システムに注力。奇瑞への供給だけでなく、他の中国メーカーへの展開も視野に入れています。

Valeo S.A.(ヴァレオ / バレオ)

・Valeoは温岭工場を拡張し、ワイパーゴムの押出ラインやカメラ・レーダー洗浄装置など、スマート化に対応した新ラインを導入。さらに、光伏発電やスマート物流を組み込んだ「グリーン工場」へ進化しています。

Nexteer Automotive Corporation(ネクステア・オートモーティブ)

・ネクステアは蘇州にスマート製造本部を建設し、電動パワーステアリングやステアバイワイヤの生産能力を強化。

Aptiv PLC(アプティブ / アプティブ・ピーエルシー)

・アプティブは武漢に新工場を設立し、研究開発センターも併設。高圧・低圧ワイヤーハーネスの製造とR&Dを一体化した体制を構築していこうとしています。

研究開発の深化と「本土検証・グローバル展開」

最近の特徴は、単なる生産拠点の設立にとどまらず、中国での研究開発を強化していることです。

アプティブの武漢工場に併設されるR&Dセンターは、上海本部と連携しながら中国市場のニーズに即応する体制を整えています。

さらに、欧州のデノード(丹諾徳)グループは上海嘉定安亭に「グローバル初のスマートコネクテッドカーソリューションセンター」を設立予定。ここで検証された技術が世界に展開されるという「中国発・グローバル展開」のモデルを打ち出そうとしています。これと似たような話をとあるシステム会社にうかがったことがあります。日本では出て来ないような発想が中国では出てくることが往々にしてあり、これを日本に持っていくようなことを考えている、というようなお話でしたが、日本あるいは本国発ではなく、中国初を世界に展開していこうという発想ですね。

外資と中国企業の協業が生む新しいエコシステム

OPmobilityと延锋の合弁事業拡大、シェフラーと嘉定氫能港の協業、仏フォルシアと舜華新能源(上海に本社を構える水素エネルギー技術に特化したハイテク企業)との提携など、外資と中国企業の協業が加速しています。これらは単なる資本提携ではなく、技術・製品・ソフトウェアを融合した新しいエコシステムの構築といえます。

例えば、延鋒彼欧(OPmobilityと中国延鋒集団との合弁会社)は外装システムに加え、照明やソフトウェアを統合した製品群を展開し、差別化を図っています。

トリプルドライバー:市場・産業・政策

中国は世界最大の自動車市場であり、EV・スマート化の普及スピードは他国を圧倒。さらに、産業チェーンの完備、地域クラスターの形成、そして政府の政策支援(補助金・税制優遇・グリーン工場認定)が外資にとって魅力的な条件となっています。外資の積極投資は、市場規模・産業エコシステム・政策支援という三つの要因に支えられているといえるでしょう。

今後の展望

外資Tier1の動きは、単に投資が行われているという見方だけではなく、中国市場を起点にしてグローバル戦略の再構築しようとしているのではないかという観点でも見ていくべきでしょう。なんだかんだいって中国の市場の巨大さ、産業エコシステムの充実、政策の後押し、この三つがは企業にとって大きなインセンティブであるには違いありません。

中国を軸としてTier1企業の動き、中国及び世界の自動車産業に対して影響を与える可能性は高いはずです。この動きがどこまで広がり、どんな新しい競争軸を生むのか。2026年以降の展開が楽しみですね。

なお、弊社では業界動向や中国市場の構造変化について、日々現場での観察と分析を重ねています。もし皆様の事業や戦略において、類似の課題や関心がございましたら、お気軽にご相談いただければ幸いです。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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