中国最高法院が特許有効認定、パナソニック電池特許防衛の示唆

目次

中国最高法院が認めたパナソニック特許の有効性

2026年1月、最高人民法院は、パナソニックエナジー株式会社が保有するリチウム電池関連の発明特許(ZL201380071925.9)について、無効請求を退け、特許の有効性を最終的に認める判決を下した。本件は、日系企業が中国で特許権を防衛した数少ない成功事例の一つであり、今後の知財戦略において重要な示唆を与えるものといえる。

事案の概要と争いの経緯

本件特許は、非水電解質二次電池に関するもので、正極活性物質層の孔隙率や、初回充電時にガスを発生させる含Li化合物の使用が技術的特徴である。2021年、第三者が国家知識産権局に対して無効審判を請求し、部分無効の決定が下されたが、パナソニック側が補正した請求項1~7については有効とされた。これに対し、無効請求人が行政訴訟を提起し、最終的に最高法院まで争われたものである。

裁判所の判断:技術者の予測可能性を重視

最高法院は、特許の開示内容が本分野の技術者にとって再現可能であるかどうかを基準に、以下の3点について判断を下した。

  • 説明書は十分に開示されており、技術者が実施可能である
  • 請求項は明細書により支持されており、過度に広範ではない
  • 技術的構成は従来技術に対して創造性を有している

このように、裁判所は「技術者の常識と予測可能性」を重視し、形式的な開示の網羅性よりも、実質的な技術的貢献を評価した。

争点別に見る無効理由とパナソニック側の対応

本件では、無効請求人が三つの主要な観点(開示不十分、進歩性の欠如、請求項の不明確性)から特許の無効を主張したが、いずれも裁判所により退けられた。以下に、各争点とその攻防を整理する。

(1)開示不十分(実施可能要件)

請求人は、請求項に記載された含Li化合物の種類が広範であるにもかかわらず、実施例ではごく一部しか技術効果が示されておらず、他の化合物については効果が不明であると主張。また、孔隙率の制御方法(圧延条件など)についても具体的な記載がなく、技術者が再現できないと指摘した。

これに対しパナソニック側は、含Li化合物の作用機序(初回充電時にガスを発生させ、電解液の浸透性を高める)を明確に説明し、技術者がその共通性から他の化合物にも効果を合理的に予測できると主張。孔隙率の制御についても、「圧延による調整」は当業者にとって周知の技術であり、実施に支障はないと反論した。

裁判所は、「すべての実施例を網羅する必要はなく、技術者が再現可能であれば開示は十分」としてパナソニックの主張を支持した。

(2)進歩性の欠如

請求人は、正極の孔隙率を下げることで容量を高めるという技術思想は既に公知であり、特許の技術的特徴は既存技術の単なる組合せに過ぎないと主張した。

これに対しパナソニック側は、単なる容量向上ではなく、「高容量と良好な負荷特性の両立」という技術課題を明確に提示。含Li化合物によるガス発生と孔隙率制御の相乗効果により、従来技術では困難だった性能バランスを実現したと主張し、実施例データを用いて技術的効果の裏付けを提示した。

裁判所は、技術課題の設定自体に創意があり、構成要素の組合せも「単なる寄せ集め」ではなく、機能的な連携があると評価した。

(3)請求項の不明確性

請求人は、孔隙率の下限が明記されておらず、保護範囲が不明確であると主張した。

これに対しパナソニック側は、「孔隙率が低すぎると電池性能が著しく低下することは当業者(その技術分野で通常の知識と経験を持つ“平均的な専門家”)の常識」であり、実質的に下限は技術常識により限定されると説明した。

裁判所は、明細書の記載と技術常識を踏まえれば、当業者は適切な範囲を理解できるとして、不明確性の主張を退けた。

実務上の示唆

本件は、以下の点で日系企業にとって重要な教訓を含んでいる。

  • 中国特許の防衛は不可能ではない。十分な技術的裏付けと一貫した主張があれば、無効審判を乗り越えることは可能である。
  • 出願時に請求項の技術的範囲を意図的に広げる場合、すなわち「広いクレームを狙う」場合には、相応のリスクが伴う。技術的範囲を広げれば、競合の回避設計を防ぎやすくなる一方で、開示不十分やサポート要件違反、進歩性欠如といった無効理由を突かれやすくなる。したがって、広く取るのであれば、明細書において作用機序の説明や実施例の設計を通じて、技術的効果の予測可能性を十分に担保する必要がある。

本件は、広範なクレームを成立させるための実務的要件を体現した事例である。パナソニックは、請求項において含Li化合物の範囲を広く設定しつつも、明細書ではその作用原理や選定理由を丁寧に記載し、実施例との整合性を確保していた。これにより、裁判所は「当業者が合理的に予測可能である」と判断し、開示不十分やサポート要件違反の主張を退けた。

特に、EV・電池関連技術は中国でも競争が激化しており、特許の有効性を巡る争いは今後も増加が予想される。自社のコア技術が中国市場でどのように評価されるか、定期的な棚卸しとリスク評価が求められる。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

目次