中国市場での成長鈍化と消費行動の変化に直面するIKEAとニトリ。両社は今、単なる出店数の拡大ではなく、チャネルの“再定義”と“都市別最適化”という構造的な課題に挑んでいる。本稿では、ネガティブ報道の背景を踏まえつつ、両社の動向と戦略の本質を読み解く。
IKEA:中国7店舗閉鎖の真意は「撤退」ではない

2026年2月、IKEA中国は全国7店舗の営業終了を発表した。対象は上海宝山、広州番禺、天津中北、南通、徐州、寧波、ハルビンの各商場である。この動きは一部メディアで「撤退」「業績不振」と報じられたが、実態はチャネルの再配置と再定義である。
今後2年間で10店舗以上の小型店を新設予定であり、東莞(2026年2月)や北京通州(同年4月)での出店がすでに発表されている。親会社インカ・グループ(Ingka Group)も中国を「戦略的重点市場」と位置づけ、2026年度の最初のグローバル視察先に選定している。
売上減速と「生長+」戦略

IKEA中国の売上は、2019年度の157.7億元をピークに、2024年度には111.5億元へと約3割減少した。成長率も2021年度の17%から2023年度には6.5%へと鈍化している。
こうした状況を受け、IKEAは「生長+」戦略を掲げ、今後3年間で63億元を投資する方針を示した。2026年度だけでも1.6億元を投じ、1,600点以上の新商品と150点以上の値下げ商品を投入予定である。
ECプラットフォーム参入の背景と戦略的転換

IKEAは長らく自社チャネル主義を貫いてきたが、2020年に天猫(Tmall)へ、2025年には京東(JD.com)へと出店を拡大した。これは、中国市場特有の「検索起点型」購買行動に対応するためであり、“顧客がいる場所に出ていく”という戦略的転換を意味する。
特に京東では、小型商品の即日配送や物流網の活用が可能となり、利便性が大きく向上した。現在では、6500点以上の商品を展開し、家具・雑貨・収納用品・キッチン用品など、ECと親和性の高いカテゴリを中心に販売を強化している。
IKEAは「小売業」だけではない──“大地主”としてのもう一つの顔

IKEA中国の戦略を理解するうえで見落とせないのが、不動産資産の保有・運用という側面である。実際、今回閉鎖が発表された上海宝山店は、IKEAが自社で土地を取得・開発したアジア最大級の旗艦店であり、単なるテナントではなく「土地と建物を保有するオーナー」であった。
IKEAの親会社Ingka Group傘下には、不動産開発・運営を担うIngka Centresが存在し、中国では「荟聚(LIVAT)」ブランドで大型商業施設を展開している。これまでに累計270億元以上を投資し、10の商業施設と3つのオフィスプロジェクトを展開。IKEA店舗を“アンカー”としつつ、周辺に商業・オフィス・コミュニティ空間を組み合わせ、安定的な不動産収益を確保するモデルを構築している。

さらに2025年12月には、高和資本と共同で不動産ファンドを設立し、北京・無錫・武漢の荟聚を共同保有するスキームを発表。無錫のIKEA店舗も、今後は第三者ブランドの入居や再開発を視野に入れた運用が検討されている。
このように、IKEAは「店舗を閉じる=撤退」ではなく、資産の再配置・再活用によって収益構造を柔軟に再設計できる“準地主”としての強みを持っている。
ニトリ:中国全体では拡大、上海は再編へ

ニトリもまた、IKEAと同様にチャネルの再定義を進めている。2025年3月には、上海万象城にて中国本土100店舗目を再達成した。これは2024年6月に一度達成した100店舗体制が、出退店を経て再構築されたものである。
特に上海では、賃料の高い中心部店舗の閉鎖や移転が進んでおり、再編フェーズに入っている。一方で、重慶・成都・南京・武漢などの新興都市では積極的な出店が継続しており、全国的には拡大フェーズを維持している。
| 地域分類 | 主な動向 |
| 上海本体 | 一部店舗を閉鎖・移転。業態転換や密度最適化を進行。 |
| 上海周辺都市(蘇州・無錫・杭州など) | 出店継続中。郊外型モールや新興住宅地を中心に展開。 |
| 内陸部・新興都市 | 出店攻勢を継続。重慶・成都・南京・合肥などが重点地域。 |
小型業態の導入:デコホーム型とアウトレット型

ニトリは都市特性に応じて、以下のような機動的業態を導入している。
| 業態 | 特徴 | 展開都市(例) | 導入背景 |
| デコホーム型 | 生活雑貨中心の小型業態。家具は最小限。 | 上海、杭州、南京、広州、成都など | 高賃料エリアでの坪効率改善。都市部でのブランド接点維持。 |
| アウトレット型 | 値下げ品・在庫処分中心。郊外型。 | 昆山、蘇州、佛山、天津近郊など | 郊外型モールやアウトレットパーク内。価格訴求層の取り込み。 |
これらの業態は、単なる「小型化」ではなく、都市の商業構造や購買層の特性に応じたチャネル最適化の手段である。たとえば、デコホーム型は都市部の高賃料エリアでも収益性を確保しやすく、生活雑貨を通じてブランド接点を維持できる。一方、アウトレット型は郊外型モールとの親和性が高く、価格志向の強い層を効率的に取り込むことができる。
ニトリはこれらの業態を通じて、「どこに・何を・どの規模で売るか」を都市ごとに柔軟に設計する力を高めており、今後の拡大戦略においても重要な役割を担うとみられる。
IKEAとニトリに共通する構造転換の本質

両社に共通するのは、「大型店=物販の場」という旧来の前提を捨て、チャネルを機能別に再構築している点である。
| 観点 | IKEA(中国) | ニトリ(中国) |
| 大型店の見直し | 7店舗閉鎖、重点都市に再集中 | 上海などで一部閉店・移転 |
| 小型・機動型業態 | 設計中心、快閃店 | デコホーム型、アウトレット型 |
| ECとの融合 | 京東・天猫に出店、全渠道戦略 | 天猫・自社EC、物流網整備 |
| 都市別戦略 | 北京・深圳に集中投資 | 内陸部で拡大、成熟都市は再編 |
この構造転換の本質は、「チャネルの数」ではなく「役割と機能」を問い直すことにある。IKEAは設計・体験・EC連携を重視した小型拠点を整備し、ニトリは生活密着型の業態を都市ごとに最適化して展開している。
両社とも、従来の「大型店を全国に広げる」モデルから脱却し、都市の成熟度・商業環境・顧客ニーズに応じたチャネルの再設計を進めている。これは単なるコスト削減ではなく、中長期的な競争力の源泉を再構築するための戦略的布石である。
異なるブランド哲学とチャネル設計の違い
両社は似たような商品カテゴリを扱っているが、ブランドの根本的な哲学と顧客へのアプローチには明確な違いがある。
| 観点 | IKEA | ニトリ |
| ブランド理念 | 「より良い暮らしを、より多くの人に」(民主的デザイン・体験重視) | 「お、ねだん以上。」 (コストパフォーマンスと機能性) |
| 商品開発 | グローバル共通設計+現地適応 | 日本基準の商品を現地展開(品質・価格の一貫性) |
| 顧客体験 | 店舗=住空間の提案・発見の場 | 店舗=効率的な購買の場 |
| チャネル設計 | 設計中心・体験型・EC連携 | 直営大型店+生活密着型小型店 |
IKEAは「暮らしの提案」や「空間体験」を重視し、チャネルもその延長線上にある。一方ニトリは、「品質と価格の最適バランス」を軸に、効率的な購買体験と在庫回転を重視している。両者は異なる哲学を持ちながら、同じ中国市場でそれぞれの強みを活かしたチャネル再構築を進めている。
総括:拡大の先にある“再定義”が競争軸に

IKEAもニトリも、単なる出店数の増減ではなく、チャネルの役割そのものを再定義しようとしている。これは、変化の激しい中国市場において、より柔軟かつ効率的に顧客接点を最適化するための布石である。
今後の焦点は、「誰が最も中国の生活者を理解し、都市ごとに最適なチャネル設計を実行できるか」に移っていく。拡大の先にある“再定義”こそが、次の競争軸となるだろう。
中国市場は、成長の余地と同時に“構造の壁”を突きつけてくる。IKEAとニトリのような大手でさえ、チャネルの再定義を迫られている現実を見れば、我々もまた、従来の常識を一度リセットし、「どの都市で、誰に、何を、どう届けるか」をゼロベースで見直すタイミングに来ているのだと思う。
