
上海のオフィス市場は、都市経済の変化を最も早く反映する分野の一つである。だがこの2年間、特に核心区のグレードAオフィスでは、賃料が14四半期連続で下落し、空室率も高止まりしている。需給バランスの崩れが長期化する中で、市場構造そのものの見直しが迫られている。
空室率と賃料の地域差が鮮明に― 立地による二極化が進行

高力国際が発表した2025年第4四半期のデータによれば、核心区と次核心区の間で空室率・賃料ともに大きな差が生じている。以下の表は、主要エリアの空室率と平均賃料をまとめたものである。
エリア別 空室率・賃料一覧(2025年Q4時点)
| エリア | 空室率(%) | 平均賃料(元/㎡/日) | 備考 |
| 陸家嘴 | 6.6 | 約8.5〜9.0 | 核心区、安定した需要 |
| 南京西路 | 約10 | 9.11 | 核心区で最も高い賃料 |
| 虹橋開発区 | 約15 | 6未満 | 核心区で最も低い賃料 |
| 北濱江 | 56.8 | 約5.5 | 次核心区で最も高い空室率 |
| 蘇河湾 | 34 | 7超 | 空室率は前年より改善傾向 |
| 真如(普陀) | 23.6 | 3.5 | 空室率改善、賃料は最安水準 |
※数値は高力国際のレポートをもとに編集
なお、これらの数値は平均値であり、ビルの築年数、グレード、設備仕様、運営体制などによって大きく異なる。単純な数値比較ではなく、物件の質的要素を加味した評価が必要である。
供給が積み上がり、需要とのミスマッチが拡大
過去5年間、上海では年間100万㎡超のグレードAオフィスが新規供給されてきたが、実際の年間純吸収量は66万㎡にとどまる。これは毎年「1.5棟分の上海環球金融中心」に相当する面積が余剰となっている計算である。
以下は、2019年以降の供給と吸収の推移を示したものである。
年度別:新規供給と純吸収量の推移(単位:万㎡)
| 年度 | 新規供給 | 純吸収量 | 備考 |
| 2019 | 約100 | 約80 | 比較的バランスが取れていた |
| 2020 | 約110 | 約60 | コロナ影響で需要減退 |
| 2021 | 約120 | 約65 | 回復傾向も供給過多続く |
| 2022 | 約105 | 約70 | 需給ギャップ拡大 |
| 2023 | 約100 | 約60 | ギャップが定着 |
| 2024 | 約110 | 約65 | |
| 2025 | 約100 | 約66 | 5年間で累積ギャップ拡大中 |
供給が増え続ける一方で、需要の伸びが追いつかず、両者のギャップが拡大している。この需給の不均衡が、空室率の高止まりと賃料の下落を招いている。
郊外エリアでは、需給の不均衡がより深刻化している。たとえば青浦では、2020年時点ですでに空室率が35.8%に達していたにもかかわらず、その後も新規のオフィス供給が相次ぎ、過剰感が一層強まった。松江でも2024年に供給が集中した結果、オフィスの募集開始から契約成立までに要する期間が平均18ヶ月に延び、2019年の約2倍に達している。これは、供給過多によってテナントの決定が長期化していることを示しており、地域としての吸引力や産業集積の弱さが改めて浮き彫りになったと言える。

オーナー側は「3ヶ月のフリーレント+内装補助」といった積極的なインセンティブを提示しているものの、空室率の改善にはつながっていない。価格や条件だけでは十分な需要を喚起できず、今後は立地特性に応じた用途の見直しや、対象とする業種の再設定など、より根本的な戦略転換が求められている。
2026年の市場展望:選ばれる物件、淘汰される物件
2026年の市場は、V字回復こそ難しいものの、物件ごとの競争力の差がはっきりと表れ、供給・需要のバランスが徐々に整理されていく展開が予想される。
上海オフィス市場の構造変化:過去と未来
| 項目 | 〜2025年の傾向 | 2026年以降の見通し |
| 競争軸 | 賃料の引き下げ | 質・運営・立地の総合力重視 |
| 供給の傾向 | 新築中心、郊外偏重 | 供給ペース鈍化、核心区での改造増加 |
| 需要の傾向 | 面積重視、コスト重視 | 柔軟な働き方に対応した小型・高機能空間、複合用途志向 |
| 成功の鍵 | 賃料インセンティブ | 産業適合性、運営力、柔軟性 |
特に注目すべきは、上海市が推進する「楼宇更新政策」である。2024〜2027年にかけて、陸家嘴や虹橋など10の試点区域で老朽ビルのリノベーションが進行中であり、これらの改造物件は旧来のビルに比べて15〜20%高い稼働率が期待されている。

また、出社を基本とする働き方が依然として主流ではあるものの、一部の企業では業務内容や人材確保の観点から、リモート勤務やフレキシブルな勤務形態を部分的に取り入れる動きも見られる。こうした変化を背景に、オフィスに対するニーズも徐々に多様化しつつあり、面積よりも機能性や柔軟性を重視する傾向が一部で広がっている。
結論:選ばれるオフィスへの転換点

2026年の市場は、「価格」ではなく、オフィスの機能性や運営体制、周辺の商業・交通インフラなどを含めた総合的な利便性が重視される局面に移行する。
- 核心区:優良資産と産業集積を武器に、安定した需要を確保する。
- 次核心区:リノベーションや政策支援を活用し、差別化を図る。
- 新興エリア:新産業ニーズに応える柔軟な空間設計と多様なサービスで台頭する。
オーナーにとっては、単なる値下げではなく、資産の再定義と運営力の強化が求められる時代である。テナントにとっても、コストだけでなく、働き方や企業文化に合った空間選びが重要となる。
2026年は、まさに“選ばれるオフィス”への転換点であり、市場の変化を見据えた戦略的な一手が、次の成長を左右することになる。
