中国で広がる“ペット経済”政策化の動きー都市戦略としての新しい潮流

2026 年に入り、中国の複数都市で開かれた両会(人民代表大会・政治協商会議)では、“宠物经济(ペット経済)”が高頻度で取り上げられています。成都、北京、上海、合肥、武漢など、地域性の異なる都市が一斉に政策として言及した点は、単なる消費トレンドを超え、都市発展や産業政策の一部として位置づけられ始めたことを示しています。ペットに関する記事なので、犬と猫の写真を何枚か入れておりますが、うちの猫のあんちゃんにも登場してもらいました。

目次

なぜ今、ペット経済が政策に組み込まれるのか

背景には、いくつかの社会変化があります。

  • 高齢化・単身化の進行
  • 消費の質的転換(悦己消費)
  • 都市の生活サービス産業の強化
  • 文旅・都市ブランドとの結びつき

こうした社会背景が、ペット経済を「生活産業」から「都市戦略」へと押し上げています。

出生数の急減とペット飼育数の増加

政策化の背景をより直感的に理解できるのが、出生数の減少とペット数の増加の対照です。 この10年で、中国の人口構造は大きく変化しました。

過去10年の出生数とペット飼育数の推移(2015〜2025)

出生数(万人)犬猫飼育数(億匹)傾向
20151,6550.75出生数は高位、ペット市場は拡大初期
20161,7860.80二人っ子政策で出生数が一時的に増加
20171,7230.87出生数は再び減少
20181,5230.91減少が加速
20191,4650.99ペット数は 1 億匹に接近
20201,2061.00コロナ期にペット需要が拡大
20211,0621.12出生数の減少が顕著に
20229561.17初の 1,000 万人割れ
20239021.20低位安定へ
20249021.23出生数は横ばい、ペット数は増加
20257921.26出生数がついに 800 万人割れ

※出生数は国家統計局および主要メディア報道、ペット数は業界白書を基に整理。

出生数と犬猫飼育数の動きがものの見事に全く逆であることがよくわかりますね。

表が示すもの:都市政策が動き出す必然性

この表から読み取れるのは、次の2点です。

  1. 出生数は10年で半減し、2025年には800万人を割り込んだ
  2. ペット飼育数は同期間で約1.7倍に増加した

つまり、「子ども中心の家庭」から「ペット中心の家庭」へと生活構造が変化しているという現実が、都市政策の方向性を大きく押し動かしているわけです。

この構造変化を踏まえると、ペット経済が政策に組み込まれるのは自然な流れと言えます。

ペット経済が「政府工作報告」に登場する意味

成都では、代理市長の陳書平氏が今年の重点として「晨間経済・夜間経済・免税経済・首発経済・ペット経済」を掲げました。すでに 2025 年の消費促進政策でもペット経済を支援対象としており、

  • ペット医療・取引・保護のサービス水準向上
  • ペットフレンドリーな商業施設や公園の整備

といった取り組みが進んでいます。

同様の動きは北京・上海・合肥・武漢にも広がっており、各都市はそれぞれの強みを生かした政策を打ち出しています。

都市ごとの特徴:役割分担が見え始めている

都市政策の方向性・特徴
成都生活サービス × 文旅。ペットフレンドリー都市の先行モデル。
北京標準化・規範化の主導。管理制度の整備に強み。
上海高端化・国際化。高品質サービスや高級消費との親和性が高い。
武漢技術・医療系の強み。細胞医療・再生医療の研究支援を提案。
合肥産業園・ペット小鎮など、産業集積型のアプローチ。

政策の方向性は、従来の「管理・規制中心」から、「産業育成・都市ブランド・技術革新」へと明確にシフトしています。

市場規模は 2028 年に 4,000 億元超へ

最新の白書によると、

  • 2025 年の犬猫飼育数:1.26 億匹
  • 市場規模:3,126 億元(前年比 +4.1%)
  • 2028 年には 4,050 億元規模へ

市場は「高速拡張」から「深度競争」へ移行し、

  • 精準栄養
  • 自社工場の競争力強化
  • 消費シーンの多様化
  • ペットフレンドリーな都市空間

といったテーマが重視され始めています。

特に注目されるのは 下沈市場(三線以下都市・県域) の伸びです。オンライン依存度が低く、ブランド認知も限定的なため、高コスパのローカルブランドが伸びやすい土壌が形成されています。

新しい成長領域:健康管理・高齢ペット・本土ブランドの高端化

業界関係者が共通して挙げる「潜在成長領域」は以下の通りです。

  • ペット健康管理(特に腫瘍・慢性病)
  • 高齢ペット向け医療・介護
  • 国産ブランドの高端化
  • 細胞医療・再生医療の応用

武漢が提案する「ペット細胞技術の研究支援」は、まさにこの流れを象徴しています。

課題:標準化・人材不足・都市の“適寵化”

一方で、課題も明確です。

  • ペット食品・用品の品質差が大きい
  • 医療・美容・行動訓練などの専門人材が不足
  • 公共空間でのトラブルや活動スペース不足

特に人材不足は深刻で、大学の関連学科や職業訓練が追いついていません。産学研の連携や資格制度の整備が求められています。

また、都市の“適寵化(ペットに適した環境づくり)”はまだ途上で、ペットフレンドリーな商業施設や公園の整備は始まったばかりです。

「ペット+文旅」という新しい組み合わせ

合肥が提案する「ペット小鎮」や、浙江の「ペット+文旅」モデルは、ペットを軸にした観光・体験型消費を狙ったものです。

これは、

  • 消費シーンの拡張
  • 地域ブランドの形成
  • 文旅産業の底上げ

につながる可能性があり、今後の注目領域と言えます。

【日系企業目線】慎重に見極めつつ、可能性を探る余地はある

中国のペット経済が「高品質・高端化・科技賦能」へ向かう中で、日系企業にとって関心を持つべき領域はいくつかあります。

ここでは、①制度・許認可、②市場選択、③パートナー戦略 の3つの視点で整理します。

制度・許認可:動物用医薬は最重要テーマ

日本の動物用医薬はアジア市場で一定の評価を得ていますが、中国で展開する場合、

  • 登録制度
  • 輸入審査
  • ラベル・成分表示の要件

など、許認可のプロセスが事業の成否を左右します。 品質の高さが評価される可能性はありますが、制度面の負担は軽くありません。 特に医薬品は「制度を理解しているかどうか」が参入可否を決めるため、最初の検討段階から専門家の関与が不可欠です。

市場選択:どの都市・どの価格帯を狙うか

日本のペットフードは「安全性 × 品質 × 日本製」という価値が一定の訴求力を持ちますが、どの市場層を狙うかの見極めが重要です。

  • 高価格帯:上海・北京・広州などの一線都市
  • 中価格帯:成都・武漢・杭州などの新一線都市
  • コスパ重視:下沈市場(三線以下都市)

また、越境 EC を自社で運営するのは負担が大きく、現実的には、

  • 日本国内の越境 EC 業者に販売
  • 中国の輸入業者に販売
  • 現地企業との協業

といったチャネルの方が安定性があります。

パートナー戦略:現地企業との協業が現実的

ペットテックや医療データを扱う領域では、

  • デバイス認証
  • 医療データの扱い
  • 医薬との組み合わせによる追加審査

など、規制面の確認が欠かせません。 統合型サービスは将来的な可能性がありますが、実際の事業化には相応の準備が必要です。

そのため、現地企業との協業や共同開発が最も現実的なアプローチになります。 特に医療・健康管理分野では、単独参入よりも「現地パートナーの制度理解 × 日系企業の技術力」という組み合わせが効果的です。

まとめ:生活産業から都市戦略へ。日系企業は「慎重に可能性を探る」段階

今回の各都市の動きを見ると、ペット経済は「家庭内の消費」から「都市の産業政策」へと段階を上げつつあります。

今後 3〜5 年で、

  • 生活サービス × 科技 × 文旅
  • 高端化 × 健康管理
  • 都市ブランド × ペットフレンドリー空間

といった複合産業へ進化する可能性があります。

その中で、

  • 動物用医薬
  • ペットテック
  • ペットフード

といった領域は、日本企業にとって関心を持つ価値がありますが、許認可・制度・流通のハードルを丁寧に見極めることが前提になります。

中国市場の変化は速いため、政策動向と制度面の変化を注視しながら、無理のない範囲で可能性を探っていく姿勢が適しているように思います。

中国の制度や政策は変化が早く、特に動物用医薬・ペットフード・ペットテックといった領域では、許認可、表示要件、流通、パートナー選定など、事前に確認すべきポイントが多く存在します。

もし今回のテーマに関連して、

  • 「制度面をもう少し詳しく知りたい」
  • 「自社の場合はどのルートが現実的か整理したい」
  • 「まずは情報収集レベルで相談したい」

といったご関心があれば、どうぞお気軽にお声がけください。

無理に進めることはせず、状況に応じた“現実的な選択肢”を一緒に整理するところからお手伝いします。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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