「蘇寧易購黒字見通し」の裏側と中国家電量販ビジネスの転換点

蘇寧易購の黒字見通しは本当に明るいニュースなのか ――家電量販というビジネスモデルはオワコン化しつつあるのかを考えてみます。

1月30日、蘇寧易購が2025年度の業績見通しを発表しました。 純利益は5,000万〜7,500万元で、前年から87〜92%の大幅減益となる見通しです。表面的には黒字を維持していますが、これを業績回復と判断するにはちと早い。むしろ、家電量販というビジネスモデルが抱える構造的な限界が、より鮮明になったとも感じられます。

目次

“攻め”ではなく“逃げ”に見える「大店戦略

蘇寧は2024〜2025年にかけて、Suning Max / Suning Proといった大型体験型店舗を79店新設しました。店内にはカフェ、ゲーム、衣物洗護(衣類ケア)、キッチン体験など様々な業態を導入し、家電販売から「生活提案型」への転換を図っています。

ネットでばかり購入していても、たまに店舗巡りして買い物するは楽しいものです。とはいえ、家電は体験によって購買意欲が大きく変わる商品というよりは、オンラインで簡単に価格比較できてしまう商品であり、オンラインでの購入に流れやすい商品なのではないかと思います。また、大型店は家賃・人件費・設備投資が重く、粗利が薄い家電との相性は良くありません。

ECでは京東・拼多多・抖音といった集客プラットフォームに押され、自社アプリのDAU(デイリーアクティブユーザー)も弱い状況です。結果として、オンラインで勝てないため、リアル店舗に戻らざるを得ないというようにも見えます。

大店戦略は「攻めの再成長」ではなく、“生き残るための逃げ”になっている可能性もあるのではないでしょうか。

零售云は回復したが、地方市場も楽観できない

県鎮市場向けの零售云(蘇寧が地方市場向けに展開する「実店舗ベースの加盟店ネットワーク」)は、2025年下半期に自営商品売上が+15.9%と回復しました。しかし、地方消費は依然として弱く、加盟店の収益性も安定していません。 大店比率が24.1%に上昇したとはいえ、地方市場で大型店を維持するのは負担が大きく、ここも「成長ドライバー」というより、既存ネットワークの延命措置に近い印象です。

Eコマース事業は国補政策頼み

オンライン事業は国補政策(政府補助金)を軸に再構築を進めています。 国補政策は家電買い替えを促すための補助金で、消費者の購買意欲を押し上げますが、これはあくまで政策による外部ブーストであり、企業の競争力とは別物です。

蘇寧は

  • 抖音・快手などの集客プラットフォームとの協業
  • 専供商品(蘇寧向けにメーカーが特別に作る“専用モデル”)の強化
  • 政企業務(政府機関・公共団体・企業向けに行うBtoB販売)の拡大

を進めていますが、いずれも自前の集客力が弱い企業が取る戦略といえます。

特にECでは、自社アプリのDAU(デイリーアクティブユーザー)が低迷し、トラフィック(集客)を買わないと売れない構造になっています。売上は作れても利益が残りにくく、EC事業が成長の牽引役になりにくい状況です。

改善した粗利率は「“成長”ではなく“削った結果”

蘇寧の粗利率は、2021〜2022年に6〜7%台まで落ち込んだ後、2023年に18.9%、2024年には22.0%まで回復しました。一見すると大きな改善ですが、その内訳を見ると実態は異なります。

粗利率が上がった主因は次の通りです。

  • 不採算事業の整理:低粗利の売上を切り落とした
  • 店舗閉鎖:粗利率の足を引っ張る店舗が消えた
  • 在庫圧縮:値下げ販売・処分損が減った
  • 専供商品の比率増加:高粗利商品が増えた

ここで重要なのが、専供商品の存在です。 専供商品とは、メーカーが蘇寧向けに特別仕様で生産する“蘇寧専用モデル”で、他社では販売されません。価格比較がされにくく、店頭での説明とも相性が良いため、通常モデルより高い粗利を確保しやすい特徴があります。蘇寧はこの専供商品の比率を23%超まで引き上げ、粗利率の底上げにつなげています。やるべきことをやっていると言えばそうなのですが、しかし、粗利率が改善しても、純利益が5,000万〜7,500万元しか残らないのは、

  • 大店戦略の固定費
  • EC流量費
  • 家電市場の縮小
  • DAUの低迷

といった構造的な重荷が依然として残っているためです。

後遺症は残したままの「カルフール問題」

2025年8月にカルフールとの訴訟は2.2億元の支払いで完全決着しました。決算への直接影響はほぼありませんが、

  • 大型買収の失敗
  • 財務体力の低下
  • 経営判断への不信感

といった“見えない後遺症”は簡単には消えません。

“役割を変えて”生き残ろうとしている「蘇寧

家電量販というモデルは厳しくなっていますが、実店舗が消えるわけではありません。 蘇寧は、実店舗の役割を次のように再定義することで生き残りを図っています。

売る場所 → 生活サービスの拠点へ

  • 家電清掃
  • 修理受付
  • キッチンリフォーム
  • スマートホーム設置
  • 生活シーン展示

オンラインでは代替しにくい領域にシフトしています。

実店舗を物流・設置・アフターサービスの拠点に

家電は配送・設置・回収が必須であり、ここは蘇寧の強みです。

零售云で“軽い実店舗ネットワーク”を維持

加盟店モデルにより、自前で重い店舗を持たずに地方市場を押さえています。

専供商品で“店でしか買えない価値”を作る

メーカーと共同開発した高粗利商品で差別化を図っています。

● O2Oでオンラインと店舗を役割分担

  • 店舗で体験
  • オンラインで購入
  • 店舗で受取・設置

という流れを作り、実店舗の価値を再構築しています。

蘇寧の安定収益の柱になりつつある「政企業務

蘇寧がもう一つ強化しているのが政企業務です。 これは政府機関や企業向けに家電・IT機器を販売するBtoB事業で、入札や契約を通じて比較的安定した需要が見込めます。一般消費者向け販売が伸び悩む中、政企業務は前年比23%増と堅調で、蘇寧にとっては収益の安定化に寄与する重要な柱になっています。

他分野にも波及する家電量販の構造変化

今回の蘇寧易購の動きは、単なる一社の業績問題ではなく、中国の家電流通モデルそのものが転換点に来ていることを考えることもできます。日本企業が中国市場でパートナー選定や販路戦略を考える際、次の点は特に重要です。

① 「店舗を増やしている=強い企業」という判断は安直

固定費が重く粗利が薄い業態では、投資負担がかさむ店舗拡大はむしろリスクになります。 売上規模より、粗利率・在庫回転・トラフィック依存度を重視すべきです。

② ECプラットフォーム依存の強い企業は利益が出にくい

自前の集客力(DAU)が弱い企業は、トラフィックを買わないと売れず利益が残りません。 「どのチャネルで売れているか」ではなく「どのチャネルで利益が出ているか」を確認する必要があります。

③ 専供商品は有効ですが、依存しすぎると交渉力に影響

特定流通への依存度が高まると、価格決定権を失います。 専供商品の比率と、他チャネルでの展開可能性を見極めることが重要です。

家電量販の構造変化は、他の耐久消費財にも波及します

家具・住宅設備・スマートホームなども家電と同じ構造に陥る可能性があります。 “オンライン化の進行度”を前提に販路戦略を再設計していくのが賢明でしょう。

⑤ “黒字化=回復”ではなく、単なる“延命”である可能性

不採算事業の整理や在庫圧縮による黒字は、成長ではなく縮小均衡です。 黒字の“質”を見極める視点が不可欠です。

蘇寧の動きは、中国小売の行方を読み解くヒント

蘇寧易購のケースは、中国小売の“次の10年”を考えるヒントになります。

2025年の蘇寧易購は、黒字を維持し、訴訟リスクを整理し、粗利率も改善しました。 しかしその実態は、

  • ECで勝てず
  • 店舗は重く
  • 市場は縮小し
  • 粗利率は削って上げただけ
  • 利益は極めて薄い

という、構造的に厳しい状況です。

日本企業にとって重要なのは、 「どの企業が伸びているか」ではなく、「どのモデルが生き残るか」 を見極めることではないでしょうか。蘇寧の動きは、その判断を誤らないための貴重なケーススタディになるでしょう。

中国の小売・流通は、表面的な数字だけでは読み解けない構造変化が進んでいます。 弊社では、こうした企業動向の分析だけでなく、現場での実務に落とし込める形での戦略設計やパートナー選定の支援も行っています。

もし御社の中国事業で、

  • 販路戦略の見直し
  • パートナー企業の評価
  • 流通構造の変化への対応
  • 地方市場(県鎮)の攻略
  • ECと実店舗の最適な組み合わせ

といったテーマでお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。 現場に根ざした視点で、最適な選択肢を一緒に考えさせていただきます。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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