先日こんなニュースを見ました。 中国産なのに宇治抹茶?商品名も同じ”模倣品”に京都の老舗企業が怒り「大事なお茶を侵されるのは本当に悔しい」 中国の販売元に問うと「消費者をだましている認識ない」(MBSニュース)
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中国産なのに宇治抹茶?商品名も同じ”模倣品”に京都の老舗企業が怒り「大事なお茶を侵されるのは悔しい」中国の販売元は「消費者をだましている認識ない」【怒り】【MBSニュース特集】(2025年4月30日)
ざっと要約すると、
- 京都の老舗企業が、中国産の「宇治抹茶」として販売されている商品に対し、模倣品であるとして強く抗議している。
- 問題となっているのは、商品名やパッケージが本物の宇治抹茶と酷似している点であり、消費者が誤認する可能性があること。老舗企業は「大事なお茶を侵されるのは本当に悔しい」とコメントしている。
- 中国の販売元は「消費者をだましている認識はない」と主張しており、意図的な誤認を狙ったものではないと説明している。
「宇治抹茶」を使ってる会社が中国にこんなにも発見!

話題になっているこの会社の名称は宇治抹茶(上海)有限公司(これを書いている時点において登記上はこの名称のまま)。老舗企業が怒っているのは商品が中国産なのに宇治抹茶と名乗っていることと、会社名称にも宇治抹茶が使用されていることです。
宇治と抹茶が同時に使用されている会社名称ってどれだけあるのかを調べてみました。営業製個人が屋号で試用しているのまで入れるとめちゃくちゃたくさんあります。あまりにも多いので、会社形態になっているものだけ拾い上げてみたところ、上にあげた宇治抹茶(上海)有限公司以外に、
- 安徽宇治抹茶有限公司
- 福州宇治抹茶餐飲管理有限責任公司
- 南寧宇治園茶業有限公司
- 宇治森林抹茶(池州)有限公司
あり、合計で5社見つけました。全て現地資本の会社になります。
中国で商標登録されている”宇治抹茶”について調べてみた
また最初の宇治抹茶(上海)有限公司に話を戻します。ニュースの中で
『「宇治抹茶」を日本の会社が中国で商標登録されていない。なので社名を「宇治抹茶」としても中国法上問題ない』
とありますが、調べてみたところ「宇治抹茶」という商標登録はいくつかあり、今でも有効なものについてその分類を見ますと、
- たばこ・喫煙具
- 飲食宿泊
- 食品
の3つがありましたが、いずれもニュースで取り上げられた宇治抹茶(上海)有限公司ではない会社が商標権を保有しています。また、これ以外にも「宇治抹茶」の前後に文字を加えたものもいくつかあります。
宇治抹茶(上海)有限公司という会社について深掘りしてみた!

さて、この宇治抹茶(上海)有限公司という会社、現地資本の会社なのですが、過去の記録をたどってみました。会社自体は2007年6月に設立。そしてこの浜本氏なる人物が法定代表人であったり、投資者であったりした時期がありましので、外形的には俗にいう日系企業とみられていた時期もあるといえるでしょう。
宇治抹茶(上海)有限公司のホームページを見てみました。
董事長によるメッセージがありましたので、日本語に翻訳してみました。董事長の写真もありますが、見た感じかなり上品です。
80年代、国語(中国なので中国語)教師をしていた私は、日本に留学中に偶然日本の茶道に触れて、すぐに抹茶に魅了されました。茶道を学ぶ過程で、日本の抹茶は中国の唐宋時代の抹茶から来たことを知りました。祖国の文化が広く深遠であることに感嘆すると同時に、祖国の抹茶の「壁の中に花を植えて壁の外に咲く」(祖国の抹茶文化が会以外で発展している)現状に複雑な思いを抱きました。
抹茶の起源は中国にあり、抹茶の根は中国にあり、私たち数人の留学生は「抹茶の道を伝承し振興し、中国人を健康で美しく」を目指すことを決定し、抹茶工場を創立に乗り出しました。
「抹茶実家に帰る」行動は京都宇治の茶人たちの支持と励ましを得て、宇治抹茶(上海)有限公司は2006年に準備を始め、宇治から設備と技術を導入し、2007年に0001号生産許可証を取得しました。
創立ブランド:唐宋御治 御治抹茶
十数年来、創業の道においてまじめに仕事をして、常に初心を感じて、怠ることなく、人々に最高の質の抹茶を提供する努力をしています。香料色素、抗生物質、成長ホルモンの毒副作用が日増しに疑問視されている今日、宇治抹茶は独自の生物学的機能と「緑」の本質でますます人々の食生活の中に深く入り込んでいます。
「宇治抹茶(上海)有限公司董事長梁文漣」
製品文化の発掘は企業の生命力の源であり、抹茶の生産に力を入れると同時に、私たちは抹茶道の復興にも力を入れて、ここ数年、国際交流の展開を重視して、技術と設備の学習と研究、優良樹種の導入と育成、多くの大学と手を携えて多元化の研究と協力を行い、抹茶という健康的な飲料と中国の伝統宗教哲学、現代社会の道徳、品行教養を結びつけて、より多くの人に抹茶を楽しんでもらいたいと思っています。
「茶道を深く知る者こそ、その真髄を極めることができる。それを得るのは丹丘の賢者のみである。 願わくば、抹茶に込められた祖先たちの卓越した創造の智慧、優雅なる茶をもてなす技、そして深遠なる哲学が、春風が柳を撫でるように、せせらぎが静かに流れるように、人々の心を温かく潤してくれますように。」
この内容が事実であるかどうかはわかりませんが、これを見る限り、日本からも応援を受けて宇治抹茶の事業を営んでいるということになります。応援を受けたかどうかは私は分かりませんし、思いについては人それぞれなので、ここは何とも言えません。
別のページでabout、要するに会社紹介のようなものがあったので、これも日本語に翻訳してみました。
宇治抹茶(上海)有限公司は日本宇治抹茶株式会社の完全子会社であり、中国0001号石磨抹茶生産企業である。会社は日本の抹茶生産設備と技術を導入し、先進的な抹茶生産工場と傘下の優良茶園15000ムー余りを持っている。年間生産量は抹茶80トン、茶製品120トンで、抹茶の栽培、生産、研究、販売を一体とし、製品は内需に供給するほかに欧米、東南アジアにも輸出されている。 専念するからこそ、専門的である。2007年、宇治抹茶は中国全国初の抹茶企業標準《Q/TFPS1 抹茶》を制定し、2017年には国家標準《GB/T 34778 抹茶》の起草メンバーの一員となった。宇治抹茶は香料・着色料・防腐剤を一切使用せず、放射線処理も行わず、他社への加工委託を決してしない。
これはさすがにいただけない。というのも、「宇治抹茶(上海)有限公司は日本宇治抹茶株式会社の完全子会社」と書ききっているからです。これは事実と異なります。株主は梁という苗字の二人の自然人により行われています。また、「宇治抹茶株式会社」なる会社、日本の法務局の登記情報では存在が確認できませんでした(名称変更してたらわからないが)。董事長のメッセージの箇所はともかく、この会社紹介の出資の部分は明らかに事実ところなります。これは明らかな虚偽記載、よろしくないですねえ。董事長メッセージに書かれているレベルのことでとどめておけば批判もある程度おさえられると思うのですが、出資に関してこういう書き方はよくない。こんなの書かなければいいのにね。
例え話:海外で育てられた和牛と言われるもので人がイメージするもの
とはいえ、この問題はちょっとややこしい点はあるかと思ってます。例えば和牛。海外に持ち出された和牛の血統(たとえばオーストラリアで育てられた「Wagyu」)は、「和牛風」や「和牛種」として販売されることもありますが、日本の法律上は「和牛」とは呼べません。でも和牛とうたっている牛肉は少なくありません。この場合、本当の日本の和牛ではないとわかっている人も多いでしょう。
例え話:銀行員時代に担当した有名店での「商標登録」の意味とは?

私が銀行員時代にうどんすきで有名な美々卯という会社を担当したことがあります。「うどんすき」はもともとは美々卯の登録商標だったのですが、現在は普通名称化しているとの判決が下されており、同社以外の飲食店でも「うどんすき」の名称を用いることができるになっており、商標登録はなおも有効も、現在は事実上、登録商標としての役割が消失してしまっています。
本来の「宇治抹茶」を中国ででも守るために考えたい事

宇治抹茶はうどんすきのレベルまで普通名称化しているかといわれると、「抹茶」はそうでしょうが、「宇治抹茶」だとまだそこまでのレベルには達していないでしょう。今回の宇治抹茶のケースでいえることは、普通名称化にいたっていない商品についてその用語を使用し、意図的に誤認させるようなことはしたらあかんということですね。それと繰り返しになりますが、「宇治抹茶(上海)有限公司は日本宇治抹茶株式会社の完全子会社」という表記、これは完全に虚偽なので、これもいかんですね。
こういうのを未然に防ぐためには早い段階で商標登録なりをしておく必要がありますが、中国で販売するつもりがなければコストをかけてまで商標登録しないでしょうし、販売するつもりになった段階だと誰かが手を付けているというのが往々にしてあるパターンかと。いつか中国で販売するかもしれないなあ、でも販売しないかもしれないなあ、これくらいを思った段階で手を打っておくべきですが、現実的にはどうしても後手になってしまいます。名称の登録状況について調べてほしいというご相談を依然受けたことがありますが、将来的に中国で販売するようになるかもしれない会社、あるいはそのつもりがなくても中国で名称を使われたくない会社であれば、その名称が利用されているか、商標登録されているか、あらかじめ調べておくくらいのことはしておいたほうがいいでしょう。