日系自動車がダントツの存在感を誇る東南アジア市場を席巻する中国EV

中国の自動車メーカーが東南アジア市場において急速にその存在感を高めています。

空港からバンコク市街地へ向かう道路沿いには、MG長城比亜迪(BYD)といった中国ブランドの巨大な看板が並んでおり、同様の光景はマレーシアでも見られます。中国メーカーの奇瑞や長城などが、クアラルンプールなどで目立った販売活動を展開しており、街中でOMODA 5Tiggo 8 Proといったモデルを見ることも増えてきました。

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電気自動車(EV)市場における中国メーカーの躍進

電気自動車(EV)市場における中国メーカーの進出は顕著です。2024年1月から5月までのタイのEV販売台数では、中国ブランドがトップ10のうち9ブランドを占め、インドネシアやシンガポールでも中国ブランドがトップです。中国国内市場で競争が激化していることや、地政学的なリスクから欧米市場でのプレゼンスが厳しい状況にあることもあり、中国自動車メーカーは東南アジアを新たな戦略的市場と位置づけ、積極的に進出しているといえます。

かつて日本の自動車メーカーが市場の約80%を占めていた東南アジア地域

中国メーカーは販売店の増加にとどまらず、現地生産能力の拡大にも力を入れています。タイ、マレーシア、インドネシアなどは、すでに中国自動車メーカーの投資の主要拠点となっており、東南アジア全体での生産能力は148万台に達するとされています。これは、2023年にトヨタが日本国内で生産した265万台に次ぐ規模であり、中国メーカーが東南アジア市場をどれほど重要視しているかがわかります。

過去に日本の自動車メーカーが市場の約80%を占めていたこの地域は、幾度となく挫折を経験してきた中国企業にとってもチャレンジングな市場であるといえます。例えば、吉利は約20年前からマレーシア市場への進出を試みてきましたが、その道のりは決してスムーズなものではありませんでした。2005年に吉利はマレーシア現地企業の協力のもと、現地での製造・組立・輸出を目指しましたが、現地での販売が許可されず、計画は大きく変更を余儀なくされました。

マレーシア市場で失敗に終わった中国EV企業の奇瑞

また、奇瑞もマレーシア市場での進出に挑戦しましたが、こちらもなかなかの苦しみを経験しています。2004年にマレーシアの現地企業と提携し、CKD(コンプリート・ノックダウン:自動車の生産方式の一つで、全ての部品を輸出し、現地で組み立てる方法)方式での生産を計画しましたが、マレーシア政府の国産車保護政策に阻まれ、計画が進展しないままに終わってしまいました。奇瑞は2006年からマレーシアでの販売を開始し、2010年までに累計で6080台を販売しましたが、以降は販売が低迷し、2015年には年間わずか303台しか販売できませんでした。現地販売を大きく展開することを視野に入れていたのであれば、大失敗といわざるを得ないでしょう。

やはり魅力的な東南アジア市場に再度挑戦の中国EVメーカーたち

このように、東南アジア市場で苦労してきた中国自動車メーカーですが、なぜ東南アジアなのか。既述したように、中国国内市場の競争激化や地政学的リスクの二つの要因もありますが、もう一つの理由として市場そのものが魅力的だと判断しただと思われます。東南アジア全体での人口は6億人を超え、その約60%が若年層という自動車消費市場の潜在力が大きい地域です。経済的にも発展が進んでおり、自動車の需要は今後も増加が期待されます。

さらに、東南アジアの国々は、近年、新エネルギー車(NEV)を支援する政策を次々と導入しています。例えば、タイでは電気自動車を購入する消費者に対して最大15万バーツ(約60万円)の補助金が支給され、インドネシアやタイでは具体的なEV発展計画も発表されています。タイは2030年までに自動車総生産量の30%を新エネルギー車にする目標を掲げ、マレーシアは2030年までに自動車販売台数の15%を電気自動車に、2040年までに38%に増加させるとしています。

現地での生産能力を高めていく中国EV自動車メーカー

こうした流れの中で、中国自動車メーカーは東南アジア市場に商機ありと判断したといえるでしょう。

タイ国内では多くの中国自動車メーカーが生産拠点を設置し始めています。たとえば、上海汽車集団は2013年にタイの正大集団と共同で「上海汽車正大」を設立し、さらに2020年には長城汽車がゼネラル・モーターズ(GM)のタイ工場を買収するなど、東南アジア市場での存在感を強めています。

マレーシアやインドネシアにおいても中国の自動車メーカーは現地での生産能力を高めています。中国の主要自動車メーカー8社のうち、7社がタイに生産拠点を設置しており、他の3社もマレーシアやインドネシアなどで生産拠点を設置しています。これにより、東南アジア全体での生産能力は148万台に達しています。

マレーシア市場では、中国の自動車ブランドが徐々に受け入れられており、特に華人層を中心に高所得者層が中国車を選ぶ傾向があります。吉利は、2017年にマレーシアのプロトン社の株式49.9%を取得し、プロトン社の経営再建を支援しました。これがきっかけとなりプロトン社は2019年に黒字転換し、現在では売上高が3倍に増加し、マレーシア市場での販売台数でも第2位の地位を維持しています。

日本車が強い東南アジア地域でEVを武器に攻め込む中国企業の今後

中国のEV自動車メーカーにとって、東南アジア市場での挑戦は大きく成長する機会ともおえ、ます。今後、中国のEV自動車メーカーがどのように東南アジア市場での地位を確立していくかが注目されます。日本車メーカーが強かった東南アジアという地域で、EVを武器に攻め込む中国企業。日本車メーカーがEVに後れを取っていることは否めない中、このタイミングで一気に東南アジア市場を刈り取りにかかろうとしていることは明白です。ここでは中国企業の動きを紹介しましたが、日本車メーカーがこれにどう対抗していくかも気になるところですね。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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