──赤字推移・北京/天津の消費停滞・南進北退戦略を読み解く

私は1995-96年にかけて約1年広州にいましたが、そのときに吉之島(JUSCO)がやってきました。当時の中国はまだ今ほど洗練されておらず、そんな中で吉之島(JUSCO)が出店してわくわくしたのを覚えています
さて、イオングループの中国事業は、ここ数年にわたり赤字が続いています。その背景には、コロナ禍や不動産不況といった外部環境だけでなく、地域ごとの消費動向の差という構造的な問題があります。北京・天津といった北方市場の消費停滞が鮮明となる中、イオンが進める「南進北退」──北方から南方への経営資源シフト──は加速しています。本記事では、赤字幅の推移、地域別の消費成長率、そして最新の店舗再編の動きを総合的に整理します。
速報天津・三河の4スーパーが2026年3月23日に閉店

2026年3月6日、イオン中国は天津市内3店舗・河北省三河市1店舗の計4スーパーマーケットについて、2026年3月23日の営業終了をもって正式閉店すると発表しました。
▸ 閉店対象店舗(2026年3月23日)
- 永旺(イオン)超市 泰達店(天津)
- 永旺(イオン)超市 中北店(天津)
- 永旺(イオン)超市 津南店(天津)
- 永旺(イオン)超市 燕郊店(三河市)
✔ 同商圏のイオンモール4施設(泰達・中北・津南・燕郊)は継続営業。天津に残るスーパーは梅江店のみとなります。
注目すべきは「モールは残し、スーパーを閉める」という二層構造の判断です。不動産・テナント賃料収益を維持しながら、採算が悪化した直営小売から撤収するという戦略が透けて見えます。イオン中国は「整体撤出(全面撤退)は不実の情報」と公式否定しており、この閉店は撤退ではなく再編の一手です。
イオン中国事業の赤字はどこまで続いているのか
永旺(香港)百貨有限公司の年次報告書によると、中国内地事業の営業損益は2020年以降、一貫して赤字が続いています。2021年には約265百万HKDの大幅赤字を記録し、商誉(のれん)の減損62.8百万HKDも重なりました。その後は縮小傾向にありますが、黒字化には至っていません。
イオン中国事業 業績推移
| 年度/百万HKドル | 売上高 | 営業利益 | 備考 |
| 2020年 | 5,068 | ▲73 | コロナ影響、火災事故あり |
| 2021年 | 5,039 | ▲265 | 暖簾減損62.8百万含む・赤字ピーク |
| 2022年 | 4,986 | ▲118 | 動態清零政策の影響 |
| 2023年 | 4,552 | ▲61 | 消費回復が予想より緩慢 |
| 2024年 | 4,349 | ▲66 | 不動産市場低迷の影響 |
出所:永旺(香港)百貨有限公司 年次報告書
売上高は5年間で約14%減少。営業赤字は2021年をピークに縮小傾向だが、黒字化には至っていません。
グループ連結で見ると、2025年2月期の営業収益は初めて10兆円を突破し4期連続で過去最高を更新した一方、
中国のイオンモールセグメントは18億円の減益、アミューズメント子会社イオンファンタジーの中国事業では82店舗の不採算店を整理し30億円超の営業損失を計上しました。赤字の構造的な原因は依然として解消されていません。
北京・天津 vs 全国:消費成長率の差が示す「北方市場の限界」
なぜ北方から撤収するのか。その答えは消費データの中にあります。北京市・天津市と全国の社会消費品小売総額の成長率を比較すると、地域差が鮮明です。
社会消費品小売総額 成長率の比較
| 年 | 北京 | 天津 | 全国 | 備考 |
| 2021年 | +8.4% | +9.3% | +12.5% | コロナ後の反発 |
| 2022年 | ▲2.5% | ▲5.8% | ▲0.2% | 動態清零の打撃 |
| 2023年 | +4.8% | +6.2% | +7.2% | ゼロコロナ解除後の回復 |
| 2024年 | ▲2.6% | +2.1% | +3.5% | 北京が全国を大きく下回る |
| 2025年 | ▲2.9% | +0.3% | +3.7% | 北京の落ち込みがさらに拡大 |
各年の社会消費品小売総額の前年比成長率。北京は2024・2025年と2年連続でマイナス成長を記録し、全国平均との差がさらに広がっています。
特筆すべきは北京の消費の落ち込みが続いていることです。2024年の前年比▲2.6%に続き、2025年もさらに悪化して▲2.9%を記録しました。全国平均が+3.7%のプラス成長を維持する中、北京だけが2年連続でマイナスという異例の事態となっています。天津は辛うじてプラスを維持しているものの+0.3%にとどまり、人件費・賃料の高さを考えると実質的な採算は厳しい水準です。高コスト・低成長という構造がイオンの採算を圧迫し続けています。
「南進北退」──なぜ南へ向かうのか

こうした北方の苦境を背景に、イオンは2020年代に入り明確な地理的シフトを進めています。北京・天津の閉店を続ける一方で、広東・湖北・湖南への投資を加速させており、その方向性は「南進北退」と呼ぶに相応しいといえます。
地域別の動向(2023〜2026年)
縮小・撤退エリア(北方)
- 北京:全店舗から完全撤退済み
- 天津:スーパー4→1店に縮小
- 三河市(河北):燕郊店閉鎖
- 北京・天津エリアのモール2施設も閉店決定
拡大・投資エリア(南方)
- 広東(大湾区):食品スーパー集中出店
- 湖北:黒字転換達成、精選社区超市を新展開
- 湖南:長沙星沙店が好調、初進出
- 2026年新規出店23店(湖北・湖南・広東・香港)
南方市場は人口流入が続き、所得水準も高く、ショッピングモール需要が旺盛です。特に広東省(深セン・広州)や湖北・湖南は全国でも消費成長が力強い地域です。湖北法人は2025年2月期に通期で経常・純利益ともに黒字転換を果たしており、「内陸部シフト」の手応えは数字に表れています。
2025年に中国全土で新規約20店舗を開業し、2026年も23店の出店を計画しています。一見「縮小」に映るニュースとは裏腹に、出店ペース自体は維持されています。
次の一手:小型化・PB強化・コミュニティ密着

イオンが描く次の中国モデルは、日本の小型食品スーパーのノウハウを転用した「精選社区超市(コミュニティスーパー)」です。カルフールが大型ハイパーマーケットにこだわり続けて中国から撤退した轍を踏まない、業態の軽量化が核心にあります。
🛒 精選SKU・地元密着
地域の消費習慣を反映した品揃えに絞り込み、大型店の非効率を回避。”必要なものが必ず揃う”店舗を目指します。
🚚 3km圏内・配送サービス
店舗起点3キロ圏内への配送と7日間返品無料を標準サービスとして提供。EC型の利便性をリアル店舗で実現します。
🏷 PBブランド7,400種超
「特慧優」「旺選味道」「EB」などの自社開発PBが7,400種を突破。品質管理を一元化し価格競争力を高めています。
📦 大型GMS → 小型SMへ転換
総合スーパー(GMS)の大型フォーマットを縮小し、食品特化の小型スーパー(SM)業態へリソースをシフトします。
「3km配送」は当たり前の時代──競合との違いをどう出すか

ただし、「店舗からの配送」は中国ではすでに当たり前のサービスです。アリババ傘下の生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマー)」は2016年のサービス開始以来、半径3km圏内・最短30分配送を標準とし、ネットスーパー大手の「叮咚買菜」は前置倉(マイクロフルフィルメントセンター)モデルで即時配送を展開。「京東到家」は既存スーパーと連携してオンライン注文を取り込むなど、配送競争はすでに熾烈を極めています。
こうした強力な競合に対してイオンが持ちうる差異化の軸は、自社PBの品質とコスパ、そして日本式の食品安全・衛生管理への信頼感です。7,400種を超えるPBは、ローカルの価格競争に巻き込まれずに独自ポジションを維持するための重要な武器と言えます。
イオン中国30年超の歩み──節目を迎える2026年
アジア展開の橋頭堡となります。
青島・広東での展開を開始します。
北京に中国本部を設立。GMS・SM・SCの3業態体制を確立。中国(香港含む)約300店、内地約200店の体制へ。
コロナ禍で業績が急悪化。2021年に赤字ピーク(▲265百万HKD)。北京からは完全撤退へ。
湖北が黒字転換。湖南・広東での新規出店を加速。
青島・広東進出30周年。新業態「精選社区超市」で内陸部を攻めます。
南方市場での黒字化が最大の課題となります。
まとめ:「縮小」ではなく「選択と集中」の正念場

- 中国内地事業の赤字は2021年をピークに縮小傾向ですが、黒字化にはまだ課題が残っています
- 北京・天津の消費停滞(北京は2024年▲2.6%、2025年▲2.9%と2年連続マイナス)が撤退判断を後押ししています
- 南方市場(広東・湖北・湖南)への集中は合理的で、湖北の黒字転換がそれを裏付けています
- モールは維持・スーパーを整理という二層戦略で固定費を圧縮しています小型店・PB・3km配送という「新フォーマット」が次の成長ドライバーとなるか注目です
今後の焦点は、湖北・湖南・広東で展開する精選社区超市がどこまでスケールするかです。南方での出店戦略が収益改善につながるか、そして中国全体の消費回復がどの程度進むか。イオンの中国事業は、まさに「選択と集中」の正念場に立っていると言えるでしょう。
