中国からの撤退企業が増加 ~持分譲渡でも騒ぎ立てる従業員~

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中国市場からの撤退する企業の理由

ここ数年で中国から撤退する企業の報道が増えています。直近の日経ビジネスの表紙タイトルがなんと「さよなら中国」という超ストレートなタイトル。進出ブームの時に中国にやってきましたが、こういうムーブメントの時代にいることになるとは。この特集の中で挙げられている日本企業の脱中国の理由は、

  • 人件費高騰
  • 景気低迷
  • 競争激化
  • 強権主義
  • 地政学リスク

といったものがあります。どれもこれも一企業の努力だけで解決することのできなさそうなものばかりです。

さて、どういう場合に撤退するのか?私の中でその理由になるものとして大きく2つあると思っています。

  • その会社が儲かっていないとき
  • その会社が今後儲からなくなりそうなとき

持分譲渡と従業員問題の関係

さて、撤退するときに通常は会社自体を清算するケース、もう一つは会社自体は清算せずに持ち分譲渡し、新しい株主の下で事業を継続するケースです。後者の場合、オーナーが変わるだけで会社自体は存続し、事業も継続するので、清算に際して発生する従業員の処理、要するに解雇して経済補償金の支払い、これが不要であるというのが本来的な姿であるのですが、実際のケースにおいては必ずしもそうなっておりません。

一つは新オーナーが譲渡者に対して経済補償金の計算年限のゼロクリアを求めるケースがあります。特に勤務期間の長い従業員が多いと、持分譲渡後に過去の勤務歴まで通算した経済補償金負担は確かにバカにできません。もうひとつは従業員側からすると規律正しく運営する日系企業のオーナーが中国系企業に代わることによって今までより待遇が劣るのではないかという恐怖を感じてなにか補償しろというケースです。それは新オーナーに文句を言う筋合いのものかと思うのですが。。。今回紹介するのは持分譲渡でありながら、従業員が騒ぎ立てているケースです。時系列でみていきましょう。

ある撤退予定の企業の従業員の反発と騒動の実態

2025年2月14日に東洋タイヤは中国子会社通伊欧輪胎張家港有限公司の持分の86%を遼寧恒達盛投資有限公司に売却する計画を発表。

これに対して従業員はこの持ち分譲渡にについて事前に知らされておらず、これに対して集団抗議を実施。

⇒そもそも持分譲渡って重大事項なので、幹部クラスはともかくすべての従業員に対してあらかじめ通知するものでもなく、個人的には従業員からのいちゃもんと感じます。

2月17日、従業員が工場付近に集まり、持分譲渡と同時に合理的な賠償案を要求。

⇒冒頭に申し上げた通り、持ち分譲渡の場合は単なるオーナーチェンジなので、賠償案を要求すること自体がおかしな話なのですが、現実的このおかしな話が発生してます。この騒ぎが起きるということは、持分譲渡に当たって経済補償金計算年限のゼロクリアを新オーナー側は求めていなかったのでしょう。

地元政府の介入もあり、工場は2月20日に補償案を発表。

補償案の内容は、離職したい従業員は12か月分の給与プラス賞与の「感謝費」を支給することで決着。

持分譲渡後の経済補償金問題

このように、持分譲渡により新オーナーの下で運営が継続するので従業員もそのまま、「経済補償金のことは気にしなくていい」と思いきや、実際はそうでないケース、ほかにもあります。私の知っている別の会社でも同じようなケースがあり、当事者としてその処理に当たっていた人は従業員に囲まれるような状況に陥ったりしたとのこと。納得感がないですが、こういう現実があるということを踏まえて対策を考えておく必要があるということですね。

しかしこの経済補償金の高額化、何とかならないものでしょうか。本件は持ち分譲渡に際して発生しているケースですが、最近メルセデスベンツが従業員の15%をリストラするという動きがあります。そしてそこで発生する経済補償金がこれまた高額でなんと「N+9」。さらにその従業員が2か月以内に新しい仕事を見つけられなかった倍、さらに3月と4月の2か月分の給与を支給するということで、これも合わせると「N+11」になります。ここまでもらえるのならすぐに仕事も探さないし、さすがに11か月もあれば次の仕事も見つかるだろうし、リストラ対象従業員にとってはウハウハでしょう。

中国事業撤退で一番苦労する事は何?

弊社もさまざまな中国事業の撤退をお手伝いをしてきました。

  • 一番ややこしく疲れるのは「人員関係
  • 一番神経を使って集中しないとダメなことは「送金

撤退を決定してから従業員に説明をする準備をスタートし、ある程度「この人は反発するだろうな」と予測をつけたりしてるのですが、蓋を開けてみると「えっ、あなたが?」っていう今まで大人しくノーマークだった従業員が一番のネックになったりするケースもあります。従業員と会社の話なのに、訳の分からない自称「労働局に勤めている親戚」という男を連れてきて、謎の助言をしてきたり。会社の印鑑を隠す従業員がいたり。結局は我慢強く従業員との間で着地点を探し求めていくしかありません。それと、送金ですが、余ったお金を送金できないとこれまた大変です。ここまで見据えたうえでスケジュールなりプランをたてていく必要があります。

弊社で遭遇した経験も今後撤退を検討されてる企業様のヒントになればと思っております。

  • 撤退を検討してる
  • 撤退するタイミングが分からない
  • 撤退することにかかるコスト感が分からない

などで思い悩んでいる方がいらっしゃいましたら、是非ともご相談ください。中国事業の撤退は何かと煩雑であり、また意思決定として重いものなので決断に時間を要し、先延ばしにしてる企業も多いと思いますが、いつかやらないといけない日が来るのを想定し、早めにイメージをつけておく必要はあるかと思います。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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