政府調達の低価格競争に歯止め:異常低価審査が義務化へ

中国財政部は1月下旬に《关于推动解决政府采购异常低价问题的通知》を発表し、政府調達における“異常低価競争(内巻き)”の是正に本格的に乗り出しました。ここ数年、地方政府の調達現場では、制度上は総合評価方式であるにもかかわらず、実務運用として価格要素が過度に重視される傾向が強まり、「実質的に最低価格が優先される」ケースが多く見られていました。今回の通知は、こうした歪みを是正するための制度的な枠組みを整えた点で大きな意味があります。

目次

背景:なぜ今、異常低価の取り締まりなのか

中国の政府調達市場は年々拡大し、2023年には4兆元を超える規模に達したとされています。市場が大きくなるほど競争は激しくなり、特に地方政府では財政事情や担当者のリスク回避姿勢などから、「とにかく安ければ勝てる」という運用が広がっていました。

その結果として、

  • 極端に低い価格で落札した企業が契約どおりに実施できない
  • 品質が著しく低い製品が納入される
  • 中小企業が無理な価格で応札し経営が圧迫される

といった問題が頻発していました。

財政部はこれを「市場秩序を乱す異常低価」と位置づけ、制度的な歯止めをかける必要があると判断したのです。

何が変わるのか:異常低価の基準が“数値で明確化”

今回の通知で最も大きなポイントは、異常低価の判定基準が明確な数値で定義されたことです。

審査委員会は、以下のいずれかに該当すると必ず「異常低価審査」を開始します。

条件内容
平均値の50%未満
次低価格の50%未満
最高限価の45%未満
専門判断で「明らかに低すぎる」

さらに、①〜③の基準は最大65%まで引き上げ可能です。 競争が激しい分野では、地方政府がより厳しい基準を設定できる仕組みになっています。

実務感覚からすると、平均値の50%や65%は“かなり低い”水準です。財政部はあえてこの低いラインを設定することで、

「本当に合理的な低価格なら説明できるはず。説明できない低価格は排除する」

という強いメッセージを発しています。

企業側への影響:事前準備の負担が一気に増す

異常低価と判断された場合、企業は「30分以上の合理的なコスト説明」をその場で提出しなければなりません。

ここで重要なのは、「30分以上」という文言が“長時間の猶予を与える”という意味ではないことです。

通知の意図は、

  • 最低でも30分は与えなさい(=30分未満は不可)
  • ただし、審査は入札会場で進行するため、無制限に時間を与えるわけではない
  • 会場運営上、1時間以上の長時間審査は現実的ではない

というものです。

つまり、企業は事前にコスト説明資料を準備しておかないと対応できないという点は変わりません。

企業が準備すべき資料の例としては、

  • 原材料費
  • 人件費
  • 製造費用
  • 過去案件の実績データ
  • 類似案件の市場価格情報

などが挙げられます。

さらに、通知は契約の履行段階の管理も強化しています。

  • 分期ごとの検査・支払い
  • 契約どおりに実施できているかの重点確認
  • 契約拒否や履行不良への厳格な処理

ここで注目すべきは、「異常低価審査を経て落札した企業」が重点監視対象になるという点です。

これは「異常低価ではないと判断されたのだから問題ない」という意味ではありません。 財政部は、

  • 低価格で落札した企業は、説明はできても履行リスクが相対的に高い
  • 過去に“説明はできたが実際には履行できなかった”ケースが多かった

という実務上の課題を踏まえ、リスク管理の観点から重点的に確認するという姿勢を示しています。

日本企業への示唆:価格以外の価値が評価される環境へ

今回の制度改正は、日本企業にとってプラスに働く可能性があります。

(1)品質重視の方向性は追い風です

日本企業は品質・信頼性・契約履行能力で評価されることが多く、極端な低価競争が抑制されれば、価格以外の価値が評価されやすくなります。

(2)コスト説明力が強みになります

日本企業は内部コスト管理が精緻で、 異常低価審査に耐えうる説明資料を準備しやすいという利点があります。

(3)地方政府の運用差には注意が必要です

基準は全国統一ですが、実際の運用は地方ごとに差が出る可能性があります。

  • 地方財政が厳しい地域
  • 競争が激しい分野(IT、設備、サービス)

では、依然として価格重視の傾向が残る可能性があります。

まとめ:政府調達市場は“価格だけの時代”から転換点へ

今回の通知は、中国政府が「安さ一辺倒の調達方式」を見直し、 品質・契約履行能力・合理的なコスト構造を重視する方向へ舵を切ったことを示しています。

企業にとっては、単なる価格競争ではなく、「なぜこの価格なのか」を説明できる力が問われる時代に入ったと言えます。

日本企業にとっては、品質と信頼性を武器に、より健全な競争環境で勝負できるチャンスが広がる可能性があります。

今回の通知は、政府調達の現場に大きな変化をもたらす可能性があります。

制度の方向性は明確になりましたが、実際の運用は地域や案件によってばらつきが出ることが予想されます。特に、異常低価審査への事前準備や、契約履行段階での対応など、企業側が押さえておくべきポイントは少なくありません。

今回の制度改正は、政府調達の現場に実務的な変化をもたらす可能性があります。

基準は明確になりましたが、実際の運用は地域や案件によって差が出ることが予想され、企業側にはこれまで以上に丁寧な準備と判断が求められます。

皆さまが制度変更に振り回されることなく、落ち着いて最適な判断ができるようになるのが一番です。今回の通知が自社の案件にどう影響するのか気になる場合は、どうぞ気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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