中国の不動産市況がよくないという報道を今もなおよく見ます。確かにいいとは言えないのですが、実際のところどうなのでしょうか。今回はあえて逆張り的な見方をしていきます。
先日日本経済新聞でこんな記事を見ました。
住宅在庫5年分、なかなか刺激的な見出しです。この記事では不動産企業の株価、住宅在庫、中国不動産大手100社の販売額の3つの表があります。順番に見ていきましょう。
不動産株と銀行株の格差が拡大中?
まず株価ですが、株価は基本的にはその企業に対する評価といってもいいと思いますので、株価が高いとその企業が評価されているといえます。しかしながら、その企業の評価と株価が見合っていない例は決して少なくないのではないでしょうか。例えばトヨタ自動車。PBRも0.9倍と1倍を切っており、PERも7.46倍に過ぎません。だからといってトヨタ自動車は大したことないということにならないですよね?とはいえ、中国の大手不動産企業の状況がよくないのは否定はできません、これはあくまで不動産市場ではなく不動産企業の話であります。

在庫5年分報道の裏にある変化とは
次に記事タイトルにもなっている不動産在庫が5年分という数値についてですが、このグラフを見てみましょう。

よく見ると住宅在庫面積は2022年にピークを迎えてからは減っています。つまり、やみくもに在庫を増やすような動きにはなっていないと評価することもできます。一時話題になっていた爛尾楼(資金不足や開発業者の経営問題などにより建設が途中で停止し、未完成のまま放置されている建物)についても、保交楼(未完成の住宅プロジェクトの完成と引き渡しを保証する取り組みです)が進められており、以前と比べると耳にする機会も減ってきています。
販売額は回復基調?最新データを読む
中国不動産大手100社の販売額ですが、グラフを見る限り2024年末あたりからマイナスとなっていますが、マイナス幅を見る限り落ち着き始めているとみることもできます。

同じ数値をもとにしても、悪くみることもできれば、そこまで言わなくてもいいのではともいえ、要するに何とでも言いようがあるということです。
過去の●●危機、▲▲ショック
そこであらためて中国の不動産市場の影響について考えてみます。記憶にある限りの●●崩壊、●●ショックとして、
バブル崩壊(日本発) | 1989年末〜1992年ごろ |
アジア通貨危機(タイ発後アジアに波及) | 1997年夏〜1998年ごろ |
サブプライム問題(米国発) | 2006年〜2007年ごろ本格化 |
リーマンショック(米国発) | 2008年9月〜2009年ごろ(直接的衝撃) |
といったものが挙げられます。いずれも金融システムに影響を及ぼしました。つまり、不況というのは金融システムに影響を及ぼしてしまうことが多いです。日本の例でいえばバブル崩壊後、銀行が国有化されたりしたのがわかりやすい例になるかと思います。中国では今のところそこまでには至っていません。そこで、中国の銀行の財務状況について見ていきます。銀行もたくさんありますが、ここでは四大国有銀行について見ていきます。
中国の四大銀行は本当に危ないのか
1.不良債権比率
不良債権比率(%) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
---|---|---|---|---|---|---|
中国工商銀行 | 1.52 | 1.43 | 1.58 | 1.42 | 1.38 | 1.36 |
中国建設銀行 | 1.60 | 1.42 | 1.56 | 1.42 | 1.38 | 1.37 |
中国農業銀行 | 1.59 | 1.40 | 1.57 | 1.43 | 1.37 | 1.33 |
中国銀行 | 1.42 | 1.37 | 1.46 | 1.33 | 1.32 | 1.27 |
全体的に減少傾向にあることがわかります。
2.貸倒損失準備金/貸出金
貸倒損失準備金/ 貸出金(%) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
中国工商銀行 | 2.68 | 2.86 | 2.85 | 2.92 | 2.90 | 2.90 | 2.87 |
中国建設銀行 | 3.04 | 3.23 | 3.33 | 3.40 | 3.34 | 3.28 | 3.12 |
中国農業銀行 | 4.08 | 4.15 | 4.17 | 4.30 | 4.16 | 4.05 | 3.88 |
中国銀行 | – | – | 2.60 | 2.49 | 2.50 | 2.44 | 2.50 |
これは貸出金に対してどれだけ貸倒損失準備金を積んでいるかの比率の推移です。2021年の数値が全体的に高くなっており、これもここ2-3年だと下がっている年度もありますが、2018年と比べるとしっかりと積んでいることがわかります。
3.貸倒損失準備金/不良債権額
貸倒損失準備金/ 不良債権額(%) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
中国工商銀行 | 175.76 | 199.32 | 180.68 | 205.84 | 209.47 | 213.97 | 214.91 |
中国建設銀行 | 208.37 | 227.69 | 213.59 | 239.96 | 241.53 | 239.85 | 233.60 |
中国農業銀行 | 256.11 | 295.45 | 266.20 | 299.73 | 302.60 | 303.87 | 302.60 |
中国銀行 | 181.97 | 182.86 | 177.84 | 187.05 | 188.73 | 191.66 | 200.60 |
不良債権に対してどれだけ貸倒損失準備金を積んでいるかの比率の推移です。直近年で下がったところもありますが、全体的に上昇傾向にあり、しっかりと準備金を積んでいるといえます。
4.不動産業向け貸金/内不良債権比率
不動産業向け貸金/ (下段:内不良債権比率) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
中国工商銀行 | 7.4% | 7.5% | 7.2% | 6.5% | 5.8% | 5.1% | 5.4% |
1.7% | 1.7% | 2.3% | 4.8% | 6.1% | 5.4% | 5.0% | |
中国建設銀行 | 3.7% | 3.7% | 4.1% | 3.9% | 3.6% | 3.6% | 3.5% |
1.7% | 0.9% | 1.3% | 1.9% | 4.4% | 5.6% | 4.8% | |
中国農業銀行 | 9.4% | 9.8% | 9.7% | 9.1% | 7.8% | 6.7% | 6.1% |
1.4% | 1.5% | 1.8% | 3.4% | 5.5% | 5.4% | 5.4% | |
中国銀行 | – | – | – | 4.4% | 4.4% | 4.4% | 4.5% |
– | – | – | 5.1% | 7.2% | 5.5% | 4.9% |
不動産業鵜向け貸金比率は大きな流れとしては減少傾向にあります。日本のバブル全盛時は不動産業向け貸し付けは全体の3割にも達していたことを考えれば、決して大きなポジションを占めているとは言えません。内不良債権比率が上昇傾向にありますが、不動産業向け貸金事態の比率は下落傾向にあることや、貸倒損失準備金がしっかりと積まれていることを考えると、これもまたいたずらに不安視しなくてもよいレベルなのではないかと思います。加えて、日本の不動産バブル崩壊は日本全国に及んだのに対し、中国の不動産市場は都市部でも下がっているとはいえ比較的知れているレベルで、特にひどいのは地方に限られるという点が異なります。また、不動産の下落の激しさも日本のバブル崩壊時と比べればまだまだかわいいものだといえるのではないでしょうか。
以上の数値の推移を見る限り、現時点における不動産市場の数値はよくないとはいえ、金融システムの崩壊にまでつながるか否かという観点で見ると、少なくとも今の時点では必要以上に不安視する必要はないように思います。
銀行の稼ぐ力
ではなぜ中国の銀行はここまで引き当てるだけの体力があるのでしょうか。中国の銀行は永らく規制金利の下で運営され、現在は自由化されていますが、規制金利の名残の元比較的高い利ザヤを稼ぐことができていたことによるといえるでしょう。実際に中国の銀行の純利息マージン(NIM)は日本の銀行と比べても高い水準にあります。

純利息マージン(NIM:Net Interest Margin):金融機関、特に銀行の収益性を測るための重要な指標。具体的には、貸出金や投資から得られる利息収入と、預金や借入金に対して支払う利息費用との差を、総資産に対してどれくらいの割合で得ているかを示す。
留意を要するのは中億の銀行のNIMは高い水準にあるとはいえ、ずっと下落傾向にある点です。つまり、預貸金については稼ぐ力が弱くなってきているという点です。

不良債権、なかでも不動産業向け不良債権を償却するスピードと、NIMの下落により償却スピードの衰えと、どちらのスピードが上回るのか。中国の不動産市場及び中国の金融システムが今まで通り稼働するかを見ていくうえで、押さえておくポイントではないかと思います。
経済の全体的な環境が決して良くないこと、米中関係の今後も予測しづらい等の要因から、心理面において不動産というものに対してなかなか前向きになれないというのは分かりますが、少なくとも現時点において金融システムの崩壊にまでつながるようには見えないことから、日本が経験したようなバブル崩壊レベルのことまでは発生しないのではないでしょうか。
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