中国で大手スポーツジムWill’s の経営危機

最近大手スポーツジムwillsの経営危機の話を聞くようになりました。

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中国で頻発してるスポーツジムの倒産

中国でスポーツジムの倒産は珍しい話ではありません。「2022年中国フィットネス業界データ報告書」によると、2022年の全国の商業ジムの倒産総数は約9751軒で、倒産率は10.39%です。倒産したジムの中には会員からお金を集めるだけ集めて、そのままとんずらしたようなところもあるでしょうが、実際には資金繰りが詰まっての倒産が圧倒的に多いでしょう。

一兆韦徳という大手スポーツジムが倒産した時の話

昨年一兆韦徳という店舗数の多いスポーツジムが倒産しました。また、昨年か一昨年には舒适堡というジムも倒産しました。私が通っていた激安ジムも閉鎖しました。その激安ジムは設備のクオリティが良く、家から最も近かったので利用していましたが、13か月の会員期間のうち12か月ほど使用したところで閉店しました。充分に利用したのであまり悔しさは感じませんでしたが、あまり利用できなかった人にとっては悔しいでしょう。今にして思えばあのクオリティであの値段は短期的に金を集めることだけが目的だった用意思えます。

既存会員へのセールスのしつこさが半端なく逆に心配。。。

現在はWill’sというスポーツジムに通っています。以前からよく見かけていたので老舗といえるでしょう。実は来月に会員カードの期限が来ますが、8月あたりから更新を促すセールスのプレッシャーがかかっていました。早く更新してもギリギリに更新してもどうせ同じだろうと思い、11月に更新するつもりでしたが、その間にWill’sの経営危機に関する報道が目立つようになってきました。店舗の閉鎖や、返金の際の手数料が30%差し引かれるなどの報道です。

消費者トラブルが多いWill’sの運営

また、そもそもWill’sには消費者トラブルが多く、訴訟記録もめちゃくちゃ多いです。これもあって更新手続きをギリギリまで待とうと思っていましたが、最近の報道を見てふんぎりがつき更新しないことに決めました。Will’sは上海に79店舗ありますが、上海に限らず、深圳や南京でも店舗を閉鎖しています。そしてこのような状況に追い込まれた原因としてビジネスモデルに問題があるのではないかといわれています。

超長期契約はしてトラブルに発生しやすく注意が必要

Will’sに限らず、多くのスポーツジムで月払いではなく年間払いが多く見られます。年間払いならまだしも、2年、3年、さらには10年、20年の会員カードも存在します。一度ジムの更衣室での会員同士のこんな会話を聞いたことがあります。

Aさん:「会員カードの期限、いつまで?」

Bさん:「あと3か月くらい。もう体がしんどくなってきたので更新しないことにした。Aさんはどれくらい残っている?」

Aさん:「あと6年くらいかなあ」

これを聞いたときにはずっこけました。どんだけ長期で契約してんねん!

日本でもジムで年契約とか普通にあると思うのですが、普通は1年かと思います。中国ででは10年のジム契約をされてる人は他でも聞いた事があります。20年契約もあるとか。10年も20年もあったら生活の変化や病気などいろいろある事でしょう。入会時そういう心配をしてたら「返金するから大丈夫だよー」ってジムの営業に言われ契約をし、いざ数年後転居などで返金希望をジムに伝えると、「そんな事知りません」など言われ、入会の時に対応してくれた営業担当者は店舗におらず、言った言わないの話で決着つかず。。。といった具合です。

今までは滅多に見なかったのですが、この1ヶ月で3名くらい受付でブチギレてる客を見ました。

客「返金してくれやーーーー!」

ジム「ここでは分からないのでカスタマーセンターに連絡してください」

客「そんな電話前からかけてるわい!永遠に繋がらへんのじゃーー!」

といった具合です。

前払いシステムにより自転車操業の恐ろしいビジネスモデル

この前払いスタイル、スポーツジムにとっては一括でまとまったお金が入るので良い話ですが、逆に言えば会員期限までは新しい収入がないということです。会員側としては、最初にまとまったお金を支払うと期限までは新たな費用が発生しませんが、期限前に店舗が閉鎖になると残余期間分の会費は損失となります。ジムの倒産は決して珍しくないので、1年以上の長期契約は考えにくいと思うのですが、それでも長期で契約する人がいないわけではありません。長期会員権を販売することで一時的に大きな収入を得て、それを元手に店舗を増やすことは一見良い方法に見えます。しかし、長期会員権販売により手にした資金で店舗増加に多くの資金を投じると、日常運営(家賃や給料など)に必要な安定的な会費収入が得られず、結果として資金繰りが詰まることになります。本来運転資金となる会費収入を店舗拡大等による設備投資に回していることによる資金ギャップが生じるということです。絶えず長期会員権が販売できればいいのですが、それも現実的とは言えません。スポーツジムや習い事教室でも同様に、長期前払いが一般的で、月謝制を導入しているところはまだ少ないです。月謝制をスタンダードにするためのルールや規制を導入しない限り、この流れを変えるには時間がかかるでしょう。

資金繰りに追い込まれたジムは非常に低価格で勧誘を始めることがありますが、そのような場合は要注意です。舒适堡の末期もこのような勧誘が行われていました。こうした勧誘が行われるようになったら、もう危険信号と言えるでしょう。

入会当時、3年で2,400元(約50,000円)だったのですが、この連絡を受けた時は確か倒産報道を見る3ヶ月くらい前だったでしょうか。なんと3年で1,300元(約26,000円)になってました。安いなーと思ったのですが、安すぎると逆に怖くなるものです。その勘は当たってました。申しこまなくてよかった〜!

ついに政府が動き出し「上海市体育発展条例」が施行

そういったトラブルに対して政府は動きはじめました。2024年1月1日から、「上海市体育発展条例」が正式に施行され、スポーツフィットネス業界の経営者が前払い方式で業務を行う場合、前受け金額と払い戻し可能なサービス期間や回数を合理的に設定することが規定されました。それでも長期会員権は依然として存在しています。この条例もどこまで効果があるか今のところよくわかりません。消費者としては長期会員権は確かに割引率が高いものの、店舗閉鎖のリスクを考慮すると短期で契約・支払いをしたいところです。

年払いから月払いに移行していく大手ジム

また、最近の景気の悪化により、消費者の財布のひもも固くなり、一気に多額の支払いに躊躇する人が増えてきたと考えられます。このため、一部のジムでは長期カードの販売をやめ、月額支払いを中心としたビジネスモデルを導入するところが増えています。安全を考えて次のジムはそういうところにしようかなあと考えたりもします。このような月払い制ジムに対抗して、従来型の長期化員ビジネスを行っている大手スポーツジムでも同様の取り組みを始めるところが出てきました。しかし、前受け金を前提としたビジネスモデルを採用しているジムが新たに月払い制で収入を得るにしても、すでに会員のベースがあることから増加幅にも限りがあり、キャッシュフロー的にはやはり難しいところでしょう。

景気がよくないといわれている状況でもありますので、これを機に長期会員制から月謝制に変更するところがどんどん現れてきてほしいですね。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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