欧米ではここ数年、「デリスキング」や「脱中国」といった言葉が繰り返し語られています。日本でもこの二つの言葉はしばしば聞こえてきますよね。政治的なメッセージやメディアの論調から、欧米企業が一斉に中国から距離を置いているかのような印象を受けることも少なくありません。しかし、実際の企業行動は必ずしもそのイメージと一致しません。 最近の報道によれば、2025年のドイツ企業による対中投資は過去4年で最も高い水準に達したとのことです。「撤退」どころか、むしろ投資を拡大している企業が多いという事実は、日本企業にとっても見逃してはならないポイントかと思います。
ドイツ企業が投資を増やす“合理的な理由”

2025年1〜11月のドイツ企業の対中投資額は70億ユーロ超、前年比55.5%増。メディアを通じて中国経済がよくないことを散々聞かされている人が多いかと思いますが、この数字だけを見ると「逆張り」のようにも映ります。なぜそうなっているのか、そこに合理的な理由はあるのか。その背景を読み解く必要があります。
地政学リスクを“現地化”で吸収
米国の関税政策や国際情勢の不確実性が高まる中、ドイツ企業は「中国で生産し、中国で販売する」現地完結型のモデルを強化しています。多くの日系企業においても、中国進出初期は中国で生産し、海外へ輸出するモデル(ということもあり、輸出オンリーの輸出加工区なるエリアが存在していたね)だったのが、中国で生産し、中国で販売する、中国市場ターゲット型に変わってきているという点において同じ動きですね。
中国事業が企業の“中核機能”に
ドイツ企業は長年にわたり、中国で研究開発・調達・生産・販売を一体化させた事業モデルを構築してきました。工場だけでなく、R&D拠点、部品サプライヤー網、販売・サービス体制までが中国市場向けに最適化されており、 中国事業は、企業全体の競争力を高めるうえで欠かせない存在になっています。このような状況の中で生産拠点を他国へ移すには莫大なコストと時間が必要です。 結果として、撤退よりも現地での追加投資の方が合理的という判断になっているのでしょう。弊社でも、中国市場を本格的にターゲットとするのであれば、中国向けの製品開発が不可欠になるとの考えから、現地に研究開発拠点を設けることを検討し始めた日本企業から相談を受けたケースがあります。
市場の規模と成長余力
自動車、化学、電子部品など、ドイツ企業の基幹産業にとっては、中国市場は依然として高い需要が見込める重要な拠点となっています。
日本企業の対中投資はどうか──2025年の最新データで見る実像

ドイツ企業の動きが注目されますが、日本企業の対中投資も2025年は独自の特徴を示しました。
2026年1月時点の最新データを総合しますと、 2025年の日本の対中投資は 「慎重姿勢の継続」と「戦略的な再投資」 の二極化が進んだ一年だったといえます。
2025年の日本の対中投資額と全体傾向
投資額は「微減〜横ばい」
財務省による確報値は2026年春以降になりますが、速報ベースでは前年比数%〜10%程度の微減と推計されています。2024年も低水準だったため、急減というよりは低空飛行状態が続いたといえるでしょう。
新規投資は抑制、再投資が下支え
中国商務部のデータによりますと、外資全体が減少する中、日本企業は既存拠点の維持・更新のための再投資が一定規模を支えたことが示されています。日本企業は撤退というよりは、既存拠点への再投資で一定の投資規模を維持しているといえるでしょう。
2025年の日本企業の投資内容(セクター別の特徴)
| セクター | 投資の動向 |
|---|---|
| 自動車・製造業 | 新規大型投資は抑制。EV関連の対応投資が中心。 |
| 化学・医薬・環境 | 内需・環境規制対応で戦略的な増資が見られる。 |
| サービス・小売 | 高級・健康志向向けは継続、中価格帯は撤退・再編。 |
| ハイテク | 医療・AIなど、中国の外資誘致策への関心が一部で増加。 |
投資判断に影響した要因
投資判断に影響したものとして以下が考えられます。経済的要因としては、不動産不況をはじめとする内需の弱さ、汎用品分野の過当競争と利益率低下、経済的要因以外では、反スパイ法などの法運用への不透明感、チャイナ・プラス・ワンの定着、これらが新規投資を抑制する一方、 既存事業の維持・強化のための再投資は続いたということがいえます。今年に関してはここ最近の日中関係の状況も影響してくることが考えられます。先日も同業の方とお話をしていたところやはりこの話題になり、その方は今回は今までと違ってかなり長引きそうだと言っていましたが、さてどうなることやら。
ドイツと日本の2025年データ比較

| 国 | 2025年の対中投資の動き | 傾向の特徴 |
|---|---|---|
| ドイツ | 前年比 +55.5%(1〜11月) | 現地化を強化し、積極的に追加投資 |
| 日本 | 前年比 微減〜横ばい(通年推計) | 新規投資は抑制、再投資が下支え |
両国とも「脱中国」ではなく、“中国事業をどう再設計するか”というフェーズに入っている点は共通しています。ただし、
- ドイツ:積極的な現地化・追加投資
- 日本:慎重姿勢の中での選択的再投資
という違いが見られます。
日本企業が直面する中国事業の再設計

海外事業の判断をどこで行うべきかは、企業によって考え方が分かれます。日本の海外事業部門が主導する場合もあれば、現地拠点が中心になることもありますし、各拠点の意見を踏まえて最終的に本社が決めるケースもあります。どれが正しいというより、それぞれの会社の方針や文化によるところが大きいのだと思います。
私自身は中国の現場にいる立場として、できるだけ現場の声を判断に反映してもらいたいと感じる立場であります。しかし、その一方で、本社側にも事情があるでしょう。そのうえで、現場にいる立場から感じている点を、いくつか挙げてみます。
- 「撤退か継続か」という単純な二択ではなく、事業モデルそのものを見直す局面に来ている。
- EV・AI・製造デジタル化など、現場を見ないと判断しにくい領域が増えている。
- 中国市場の変化は外からの印象だけでは捉えきれず、現場との温度差が生まれやすい。
本社としては「理解しているつもり」でも、現場から見るとその理解の深さに差も出てくるでしょう。だからこそ、両者の間にある認識のギャップを少しずつ埋めていくことが、これからの海外事業ではより大切になってくるのではないかと思っています。また、撤退という言葉はネガティブな印象を感じますが、その現地法人がやるべき役割を終えたという考え方をすれば、全てをネガティブにとらえる必要もないと思います。
まとめ:対中戦略は「撤退か継続か」ではない

「脱中国」という言葉が独り歩きする一方で、 ドイツ企業は投資を拡大し、日本企業も慎重ながら再投資を続けています。 日本企業にとっても、イメージではなくデータと現場に基づいた判断が求められる局面が続きそうです。
中国の事業環境は変化が大きく、外からの情報だけでは判断が難しい場面も増えています。現地の状況を丁寧に整理したい企業の皆さまには、必要に応じて私たちもお手伝いできることがあります。判断材料を整える際の一つの選択肢として、気軽にお声がけいただければ幸いです。
