日本と中国の不動産マンション管理制度の違いと修繕積立金の実態

賃借していたマンションを昨年契約期間中に退居し、今は知人がその契約を引き継いで住んでいるのですが、なんでも更新に当たって大家さんのほうから家賃の減額を言ってこられたとのこと。大家さんも現在の経済状況はあまりよく思ってないことの証ですね。

さて、仕事柄いろんな情報を仕入れるためにいろんなものを読みますが、その中で仕事に関係なさそうでも読み物として面白い記事を見つけることがあります。最近見つけた個人的に面白いと思った記事はこれです。

日本の建築士が中国のマンション建設現場を見学してカルチャーショックを受けた話

この記事の中で特に気になったのが、『中国のマンションに長期修繕計画は…「ない」!』という箇所です。個々の部分について掘り下げていきます。

目次

日本の管理費・修繕積立金などはどのくらい?

日本のマンションだと毎月のように管理費、修繕積立金等が発生し、特に修繕積立金に関しては将来的な修繕のためのまさに積立金としてプールし、必要が生じたときに取り崩すことになっています。とある売却物件のチラシで見たのがこれです。

東京の1億円するマンション

管理費修繕積立金その他合計年間合計
11,900円14,630円2,152円28,682円344,184円

管理費及び修繕積立金等で年間でざっと35万円近くの支出が発生します。

中国の管理費はどれくらい?

さて、中国ではどうでしょうか。『中国のマンションに長期修繕計画は…「ない」!』とありますが、マンションを保有する限りやはり管理費等が発生します。とある物件、88平米の上海市長寧区のマンション。628万元(約135百万円)の物件の毎月発生する管理費等がこれです。

3ヶ月1ヶ月
管理費及び運営費477.30元3,416円

3か月ごとの徴収で、管理費及び運営費名目で合計477.30元、月換算すると159.1元、日本円にするとたったの3,416円です。この明細に修繕積立金らしきものは含まれていません、管理費+運営費が日本でいう管理費に相当するものとしても1か月で3,416円というのはあまりにも安すぎます。ちゃんと管理や清掃ができているのか?と疑う人もいるかと思いますが、いちおう守衛さんもついており、清掃もしており、まあそれなりにはできています。とはいえ、あくまで日常の清掃を行っているという程度であり、どこかに不具合が生じた場合にどこまできっちりとメンテナンスするか、そこはマンション次第でしょう。次に気になるのが修繕積立金です。

『中国のマンションに長期修繕計画は…「ない」!』というのはどういうことなのか、記事の中身を見ていきます。

中国のマンションに長期修繕計画は…「ない」のか?!

  • 日本では修繕積立金を毎月積み立てて、長期修繕計画を立て、約15年のペースで大規模修繕を行いながら、マンションの性能や美観、資産性を維持することが一般的です。
  • (中国について)修繕積立金や管理費はどうなっているかを聞いてみたところ、そもそも長期修繕計画そのものが「ない」とのことでした。新築から5年程度は、デベロッパーが漏水などを含めある程度の範囲まで保証するようですが、その後のことはあまり考えていないようでした。
  • 修繕積立金については、中国では購入時に一括徴収する制度が一般的で、しかもそのお金は法律に基づき修繕積立金専用の口座を作ってそこに入れ、運用は政府の監督の下で行われるのだそうです。

日中の違いを表にしてみました。

日本中国
修繕積立金は管理組合が保管・管理修繕積立金専用の口座にプール
管理組合は、マンションの共用部分の修繕や維持管理に必要な費用を確保するために修繕積立金を集め、その使用計画を立てる物件売却の際に修繕積立金見合いの金額が織り込まれている

ということのようです。日本では修繕積立金は管理組合が保管・管理しています。管理組合は、マンションの共用部分の修繕や維持管理に必要な費用を確保するために修繕積立金を集め、その使用計画を立てます。中国では物件売却の際に修繕積立金見合いの金額が織り込まれ、修繕積立金専用の口座にプールされているようです。区分所有権者大会が成立するまでは建設(不動産)主管部門が代行管理、区分所有権者総会が成立した後は区分所有権者大会が自ら管理または区の家屋行政管理部門に委託して口座資金の管理のいずれかを選択します。なるほど、そういうことなのか。では、修繕積立金見合いの金額は売却金額のどれくらいになるのでしょうか。

修繕積立金見合いの金額は売却金額のどれくらい

《住宅特別維修資金管理弁法》(中華人民共和国建設部、中華人民共和国財政部部令第165号)という通達を見ますと、その第7条に

「分譲住宅の区分所有権者、非住宅の区分所有権者は、所有する不動産の建築面積に基づき住宅特別メンテナンス資金を預託し、建築面積1平方メートル当たり第1期住宅特別維修資金を預託する金額は現地の住宅建築据付工事の1平方メートル当たりのコストの5%から8%とする。」

とあります。売却価格ではなく建築価格の5~8%ということですね。

出所:国家統計局  作成:TNCリサーチ&コンサルティング 

これが売却価格のどれくらいになるかはディベロッパーの利益率にもよりますが、上の表にある数字を参考にして、建築費に対して販売価格を2.5倍とすると、修繕積立金は販売価格に対して2%~3.2%程度になります。

ということは、1億円の物件だとすると修繕積立金見合いの金額は2~3.2百万円程度になります。単純に300万円としますと、先ほどの日本の1億円の物件(修繕積立金14,630円)で引き直しますとざっと17年分の修繕積立金を前取りしていることになります。日本のマンション管理規約では大規模修繕の周期として30年に2回行うことが一般的で、しかも規約変更すれば修繕積立金の増額も可能ですが、中国の場合は最初の段階で17年分しか積み立てられていないことを考えますと、日本で考えるところの大規模修繕を1回してしまうと修繕積立金が使い果たされてしまうということになります。

20年くらい経過している物件はいくらでもありますが、中国のこの20年間の発展から考えると、20年の販売価格基準で積み立てられた修繕積立金で、いま大規模修繕しようとしても全く追いつかないことが想像できます。となると、追加負担を迫られるケースも出てくるでしょう。

知人とこんな話をしていたところ、エレベーターが老朽化したので交換するにあたり追加支出を迫られた要は話を聞きました。日本のように毎月積み立てているとそこから積立金を取り崩せばいいのですが、中国の場合だと普段積み立てていないなかで追加負担をさせられるので、気分的に損した感を感じるのではないでしょうか。

不安をよぎるいつか来るだろう中国での修繕積立金不足・・・

日本のように修繕積立金が制度として確立していながらも、老朽化による建て替えで住民間の意思統一が図られないようなことが問題として発生するようになってきていますが、中国においても建て替えとまではいかないまでも、大規模修繕が生じた場合で、前取りした積立金だけでは不足するという問題が生じ場合、いったいどうなるのでしょうか。

なんとなく今のところでは「それはまだまだ先のこと、その時考えればいい」というような感じかもしれないですが、実際に発生するとかなり厄介ではないかと思います。解決策としては、政府による補助金(エレベーターのない古い小区にエレベーターを敷設するケースで見られます)を出してもらえるか、この支援が得られないとなると結局物件オーナーが資金を拠出することにならざるを得ません。《住宅特別維修資金管理弁法》においてはこのようなケースも想定しており、その第17条において、

「区分所有権者の戸別帳簿住宅特別維修資金残高が初期預託額の30%に満たない場合、速やかに追加徴収しなければならない。区分所有権者大会を設立する場合、追加徴収案は区分所有権者大会が決定する。」

とあります。となると、その時々の経済状況で負担できる人もいればできない人もでてくるでしょう。そろそろ出始めていてもおかしくない問題なので、そう遠くないうちにあちらこちらでこの問題が発生する可能性は否定できないでしょう。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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