粧品のオルビス(ORBIS)が中国事業から撤退するという発表がありました。
オルビス(ORBIS)は、POLAグループの一員で、日本発の無油分・無香料・無着色のスキンケアブランドです。肌へのやさしさと機能性を重視した製品を展開しており、主に通販・ECを中心に展開しています。
この記事の中で理由として挙げられているのが「中国経済の停滞」や「EC市場の競争激化」の二つです。確かにそうなのでしょう。それぞれについて見ていきましょう。
中国経済はどの程度「停滞」しているのか?
化粧品はリテール産業に該当しますので、中国の小売りの指標である社会消費品小売総額の推移を見てみましょう。2020年はコロナ禍要因で大きく下落、2022年はやはりコロナ禍に伴う各地でのロックダウンによる影響により下落してます。直近の2024年はマイナスにこそなってませんが、伸び率は下落しています。
社会消費品小売総額の推移

では化粧品市場はどうだったのでしょうか。メディア報道によりますと、2024 年の中国化粧品市場規模は7,746.45億元で、前年比▲2.83%となってます。確かに落ち込んでます。
化粧品業界のEC競争とその敗因

EC市場の競争激化を理由に挙げているということは、ECが販売のメインチャネルであったということでしょう。ところが、下の表を見る限り、化粧品のEC販売の市場規模は基本的には伸びており、直近2024年も伸ばしていることがわかります。市場自体は伸びているので、ここでいう競争激化はその競争に敗れたという意味合いで間違いないでしょう。
中国化粧品オンライン販売額は近年同様に鈍化傾向

国産化粧品の台頭と海外ブランドの失速
しかし、理由として挙げられた「中国経済の停滞」や「EC市場の競争激化」だけでこの話を終わらせるわけにはいきません。もう一つあります。競合品、なかでも中国国産の化粧品の力がついてきたことです。本当に考えるべきは「中国経済の停滞」や「EC市場の競争激化」でもなく、中国の化粧品の実力が強くなってきたこと、ここを理解しないといけません。

少し古いデータですが、2023年の中国化粧品市場の国籍別シェア及び前年比伸び率です。中国なので中国国産品のシェアが高いのは当然と言えば当然ですが、販売額成長率を見ますと日本が前年比▲17%に対して、中国国産がプラス21.2%となっています。韓国も大きく落としています。それに対して欧米のマイナス幅はわずかであり、ブランド力の強さで支えているのだと思われます。
2023年 中国化粧品市場の国籍別シェア及び前年比伸び率
地域・国 | 売上額増減率(前年比) | 市場シェア |
---|---|---|
国産 | +21.20% | 50.40% |
韓国 | -26.10% | 6.60% |
欧米 | -0.60% | 30.90% |
日本 | -17.00% | 9.70% |
その他の国 | +35.60% | 2.60% |
これを見る限り、2023年の時点で中国国産化粧品はすでに大きな脅威であったといえます。参考までに資生堂のここ5年間の地域別売上高推移を見てみましょう。2019年から2020年にかけての日本の落ち込み方があまりにも大きいですが、これはコロナ要因によるものでしょうか。しかしその後もコロナ前まで戻る兆しが見えない動きです。日本の落ち込みも目立ちますが、今回は中国の話題なので中国の数字を見てみましょう。2020年が2890億円でピーク、2021年と2022年の2年度は日本の売上高を超えましたが、こちらも2020年のピーク時の売上高に戻る感じには見えないです。この失った売上高もまた中国化粧品にとって変わられているのでしょうか。

爆買いというワードがはやり始めたころ、日本にやってくる中国人観光客がこぞって日本ブランドの化粧品を購入していました。もちろん今でも購入する人はいますが、以前ほどではなくなってきているでしょう。
日本企業が誤解しがちな中国の現在地

これ化粧品の話ですが、中国企業が力をつけてきているのは他にもたくさんあります。認知されているものとしてはスマートフォンがありますし、最近ではPOPMARTという玩具会社の勢いがすごいのですが、こういった日本が強そうなコンテンツ系でも勢いを増してきています。オンラインゲームでもテンセント等の中国企業の勢いは強いです。
中国発のPOPMARTの人気キャラ「ラブブ」や「モリー」はなぜ世界的にヒットしたか?
今こそ再考、中国進出戦略の新しい描き方

おそらく日本にいる人は中国企業のブランド力や技術力なんてまだまだ日本のレベルには程遠いと思っている人が少なくないでしょうし、ヤフコメなんか見ているとそういう類のコメントがたくさんあります。しかしながら、中国製造業を侮ってはいけません。さすが世界の工場といわれるだけあって、生産規模は大きく、規模の経済も働きますし、ほかにも理由はあるのでしょうが安く生産できる、そしてその品質も以前とは段違いのレベルになってきており、現地進出日系企業がかなり追い上げられているのが現状です。この現状を受け入れたうえで、次のどのような絵が描けるか。これを考えていかないと今それなりに儲かっている事業であってもじり貧になっていくのは避けられないでしょう。そして実際にこのような悩みを持つ企業も増えてきており、私にもこのようなご相談をしてこられるところもあります。中国企業の実力を認識する、まずここがスタートで、これを前提として今後の動きを考えていく必要があります。