地下銀行1100件摘発が映す現実~中国資金の行き先は日本だけではない~

日本では近年、外国人による不動産購入が注目されている。その中でも、世論の焦点は「外国人の中でも特に中国人が買いあさっている」というイメージだ。SNSや一部メディアでも、中国人投資家が日本の不動産を大量に取得しているという論調が繰り返されている。

しかし、東京23区の新築マンション取得者を見ると、2025年上半期で最も多かったのは台湾で192件。中国は30件、香港は15件と、世論の印象とは異なる数字が並ぶ。

目次

東京23区・新築マンション取得者(2025年1〜6月)

国・地域件数
台湾192
中国30
香港15
シンガポール21
米国13
英国15
その他22

出所:国土交通省「東京23区で新築マンションを取得した国外住所者の国・地域」(2025年11月公表)

ただし中国本土・香港・台湾の人々は見た目も名前も似ており、外からは区別がつきにくい。そのため「中国系」として一括りにされ、その中でも“特に中国人”が注目されやすいという側面がある。

中国人は日本の不動産を買いたい─しかし正規ルートでは送金できない

中国人が日本の不動産に関心を持つ理由は明確だ。

  • 円安で割安に見える
  • 上海などと比べると同価格帯でも日本のほうが品質が高い
  • 中国は「土地使用権70年」、日本は「永久所有権」

この「品質+所有権+価格」の組み合わせは非常に魅力的で、日本の不動産は“買いたい資産”として映る。しかし、最大の問題は 送金 である。中国本土には厳しい資本規制がある。

  • 個人の海外送金は年間5万ドルまで
  • 不動産購入目的の送金は原則不可

つまり、正規ルートでは日本の不動産を買うための資金を送れない

香港経由の資金移動も、近年は状況が大きく変わっている。かつては「香港に資金を移せば、そこから海外へ送れる」というルートが一般的だったが、2019年以降、香港の銀行は本土のAML基準に合わせて審査を大幅に強化した。

  • 大口送金には資金源の説明が必須
  • 本土からの資金移動は特に厳しくチェック
  • 不動産購入目的の送金は“高リスク取引”扱い
  • 送金が保留されるケースも増加

その結果、以前のように「香港に移せば何とかなる」という状況ではなくなっている。

買いたいのに、送れない”、これが中国人が直面する最大の壁である。

そこで頼るのが地下銀行──影の資金移動インフラ

正規ルートが使えない以上、中国人が頼るのが 地下銀行(影子銀行) だ。

地下銀行は、国内外で別々に資金を動かす 対敲(たいこう)方式 を使う。

  • 中国国内で人民元を受け取る
  • 海外の別ルートで外貨を渡す

資金は国境を越えず、送金規制を回避できる。さらに、対敲は現金の手渡しではなく、振込や電子マネーなどオンラインで行われるため、必ずどちらかが先に資金を動かす必要がある。この“非対称性”がある以上、信頼できない相手とは取引できない。
そのため地下銀行は広告を出さず、知人・親族・同郷ネットワークの紹介制でしか広がらない。

地下銀行は違法でありながら、名義口座が凍結されれば即死するため、利用者に対して驚くほど厳格な確認を行う。

  • 入出金明細の提出
  • 資金のクリーンさの確認
  • 動画での本人確認(顔・声・動作の一致)
  • 大口現金の用途確認

利用者が地下銀行を使うのは、「違法でも使いたい」からではなく、“他に方法がないから” である。

地下銀行の資金の行き先は日本だけではない

日本の不動産購入に地下銀行が使われることは多いが、地下銀行の利用はこれに限られない。

資金の行き先は日本だけではなく、

  • 米国(学費・移民・不動産)
  • カナダ(移民・不動産)
  • オーストラリア(移民・不動産)
  • シンガポール(資産保全・法人設立)
  • 英国(留学・不動産)
  • 東南アジア(投資・第二拠点)

など、海外資産移動全般に使われている。

地下銀行は、中国の資本規制の“影の出口”として機能しており、その規模の大きさが1100件という摘発件数にも表れている。

その地下銀行が1100件も摘発された─何が起きているのか

2026年1月、中国の国家外貨管理局は、2025年に地下銀行・違法な跨境資金移動を 1100件以上摘発 したと発表した。これは単なる摘発件数ではない。中国の資本移動が新しい段階に入ったことを示す数字である。

近年の地下銀行は、

  • 暗号資産
  • 海外法人
  • 多段階スキーム
  • 小口分散送金

など、手法が高度化している。

これに対し中国政府は、銀行データの一元化、AI監視、公安・税務・外管局の連携を強化し、資金の流れをリアルタイムで監視する体制を構築した。

その結果、

  • 小規模・素人型は壊滅
  • 大規模・組織型は“プロ化”
  • 利用者は富裕層に集中

という二極化が進んでいる。

摘発が進むほど、地下銀行は“さらに地下化”する

地下銀行を取り締まれば資金移動が止まる──そう考えがちだが、実際には逆である。

表のルートを塞げば塞ぐほど、資金はより地下化し、見えない世界へ潜っていく。

従来型の地下銀行は姿を消しつつあるが、その一方で、

  • 暗号資産を使うルート
  • 海外法人を使うルート
  • 多段階で資金を分散させるルート

など、より複雑で追跡しにくい資金ルートが発達している。摘発は終わりではなく、
新しい地下化の始まりでもある。

日本の不動産会社の現金対応──大口現金は避けたい

日本の不動産会社が現金を嫌がる最大の理由は、銀行で大口現金を入金するとマネロンを疑われるリスクがある ためだ。

銀行は大口現金に対して厳格な確認を行うため、

  • 入金理由の説明
  • 資金の出所の確認
  • 取引の保留
  • 入金拒否の可能性

といった事態が起こり得る。

そのため、

  • 手付金程度なら現金でも問題ないが、大口現金となると振込を望む

というのが現場の実態である。

まとめ─地下銀行摘発は“資金移動の終わり”ではなく“新しい地下化の始まり”

中国人が日本の不動産を買う背景には、「買いたいのに、正規ルートでは送れない」 という制度的な壁がある。その壁を越えるために地下銀行が使われ、その地下銀行が1100件も摘発された。

しかし摘発が進んだからといって資金移動が止まるわけではない。
むしろ、

  • 従来型の地下銀行は淘汰され
  • 暗号資産や海外法人を使う“プロ型”が生き残り
  • 資金ルートはさらに地下化し
  • 透明性はむしろ低下する

という未来が見えてくる。

地下銀行摘発は、資金移動の終わりではなく、より見えにくい資金移動の始まりである。日本の不動産市場を読み解くうえで、この変化をどう捉えるかが、これからますます重要になる。

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この記事を書いた人

神戸育ち。住友銀行入行後、大阪を中心にほぼ一貫して法人業務畑を歩む。上海支店赴任後は中国ビジネスコンサルティングに特化、2005年に日綜(上海)投資諮詢有限公司設立に伴い同社の副総経理に就任し、2011年10月より独立し株式会社TNCリサーチ&コンサルティング代表に就任。

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