人事労務について・「経済補償金」についてのお話

中国で働いていれば経済補償金というもがあるというのを知ってる人がたくさんおられるかと思います。こちらでは、事例を元に「経済補償金」について少し詳しく説明していきます。

会社都合の退社に伴い発生する「経済補償金」

社員が退社する場合、会社都合でやめてもらう(解雇する)場合と会社が社員の自己都合(もっと給料のいい仕事が見つかった、家庭の事情etc)の大きく二通りに分かれます。

中国の決まりでは、社員の自己都合の場合には会社から何も支払う必要はないのですが、会社都合でやめてもらう場合、その状況に応じて「経済補償金」の支払い義務が発生します。

労働契約法第47条第1項によると、
「経済補償金は労働者が勤務していた年数に照らし合わせ、1年毎に賃金1ヶ月分を基準として労働者に支払われる。」

となっております。なので、3年働いてたら賃金の3ヶ月。20年働いてたら賃金の20ヶ月という事になります。ただし、高級社員(その場所の平均賃金の3倍以上)の場合、12年以上働いても12か月が上限になります。

中国事業からの撤退の時に一番コストがかかる「経済補償金」

1年2年の勤続年数の方のリストラなどは数ヶ月などの経済補償金額なのですが(それでも結構な金額)、勤続20年ともなると相当な金額になります。中国事業から撤退する場合、色々とコストが発生しますが、このコストが最も大きな比重を占めるケースが多いでしょう。いわゆる撤退費用ですね。これが足らない場合、つまり払うべきものを払うことができない場合、理論的に破産になってしまいますが、多くのケースにおいてはそれを回避するために、本社から増資したり親子ローンを貸し付けたりします。

早期解決のために経済補償金を上積みさせるケース

上に書いた経済補償金の計算の仕方はあくまで原理原則であって、話し合いを早く終わらせるために経済補償金を上積みさせるケースも見られます。かなり羽振りよく支給した場合、今の時代だとすぐに拡散されてしまいます。拡散された情報でこういうのがありました。

日系A社の経済補償金の事例

中国の経済誌『時代週報』によると、日系某社(以降、A社という)の元社員のひとりが、工場閉鎖決定以前の月収が7000~1万元(約12万5000~17万9000円)で、退職金を25万元(約449万円)受け取った。勤続30年の別の元社員は、最終的に150万元(約2690万円)余り受け取ったと報道しています。以下はこのA社の事例について、A社がが従業員に対して通知した文書とともにその内容を紹介します。

A社の事例

1.経済補償金(法定以上)
•計算基準:N+1
「N」は法定経済補償金、すなわち従業員の会社の勤続年数×従業員の月平均賃金;
•「+1」とは、通知金代わり(すなわち、1カ月の月平均賃金)に相当する額をいう
「会社勤続年数」とは、従業員が会社に勤務した年数(入社日から最終勤務日2022年1月31日まで)
日止).満1年ごとに1ヶ月月平均賃金を支給します。6ヶ月以上1年未満の場合、1年として計算;6ヶ月未満の場合は半月として計算

・「月平均賃金」とは、従業員の労働契約の解除・終了前12カ月間の平均賃金。「前12カ月間」については、従業員の皆さんの2021年2月~2022年1月(2021年7月・2022年1月に支給された特別給与を含む)を計算期間とする。
·『労働契約法』によれば、従業員の月平均賃金が現地社会の平均賃金の3倍を超える場合、3倍を上限として計算し、勤続年数の最高年数を12年と定めているが、この上限を設けない

2.特別慰労金
①勤続年数が10年未満:2008年1月1日からの会社勤続年数×月平均給与× 1.0
②勤続年数が10年以上20年未満:2008年1月1日からの会社勤続年数×月平均給与× 1.2
③勤続年数満20年:2008年1月1日からの会社勤続年数×月平均給与× 1.3

3.就職支援金
①勤続5年未満:1カ月月平均給与を支給:
②勤続5年満10年未満:2カ月月平均給与を支給:
③勤続年数が満10年15年未満:3カ月の月平均賃金を支給;
④勤続年数が15年以上20年未満:4カ月の月平均賃金を支給;
⑤勤続20年以上25年未満:5カ月月平均給与を支給:
⑥工鈴満25年30年未満:支給6カ月月平均給与を支給:
⑦勤続30年:7ヶ月の月平均賃金を支給

4.特別賞与:2022年上下期2回特別手当を全額支給。評価基準は以下の通り
2021年の次期特別会計基準に照らして、A2の評価を下回る場合は一律A2の評価基準に基づいて支給する
5.帰省手当 旅費1000元、春節紅包1000元

かなりの大盤振る舞いであることがわかります。確かに話し合いも早く終わるでしょうし、社員もハッピーなのは間違いなのですが、「相場を上げないでほしいな!」を感じた人も少なからずいたようです。

実際に経験した撤退案件で従業員から言われた事例

私自身も通常の解雇、業績不振に伴う解雇、会社清算に伴う解雇、いろんなケースをお手伝いしてきました。こちらに思い通りになったケースもあれば、てこずらされたケースもあります。思い出に残るケースとしては、コロナで人の往来ができなくなってしまった時期に会社清算をお手伝いしていたのですが、日本本社から人が来れないので従業員向け説明もすべて行ったケースです。最後ということもあっていろいろ言ってきます。

従業員からの要望事例

「一回やめてるけどすく復職してるので、勤続年数は通算してほしい」⇒ダメ

「入社したばかりのときに社会保険を納付してもらってない時期があったが、ちゃんと払ってほしい」⇒払います

「こんな金額じゃ納得できない」⇒これ中国の法律通りなので、文句を言うのは自由だけどその間経済補償金払えないよ

現地中国人総経理が協力的且つ人望もあったおかげで、事務的なことは後から補うことになりましたが、金額面については翌日には全員OKの署名をもらうことができました。

業績不振で経済補償金が払うお金のない会社の事例

別のケースでこんなケースもありました。そこは業績不振で経済補償金を支払うだけの体力のない会社です。現実的な話として、いまあるキャッシュを満額というわけにはいかないが全額を従業員の本来払うべき経済補償金の金額をもとに案分して経済補償金として支払う説明をしました。さらには会社の預金はそう遠くないうちに差し押さえられると思うという旨も説明しました(実際にその後差し押さえられました)。

その説明会の時に、その会社の財務を担っていた社員Bが第三者を連れてきました。この社員Bは本当に面倒な人間で、何からにまで非協力的で、「あれなくした、これもなくした、どれ見つからない」の連発で、本当にストレスがたまりました。さて、この第三者が「私は労働局のもので、こういうケースにはよく遭遇しているので話し合いに参加させてもらいますね」と言ってきました。そのときは、面倒な人がやってきたなあと思いつつ、「労働局の方なら労働局で働いている工作証を提示してください」と伝えたところ、提示してもらえなかったので帰っていただきました。結局この時は提案内容に賛成した従業員は協議書に署名し、賛成しなかった、つまりごね続けた社員Bのその後は知りません。会社の預金は差し押さえられたので社員Bの経済補償金はすぐに貰えなかったでしょうし、その後貰えたかどうか。。。

社員の能力不足により退職させたい場合

あと覚えているのは、これは相談だけでお手伝いしなかったケースです。

「本当に出来が悪くて、やめてもらわざるを得ない。どうすればいいか」。という相談です。なにかしら理由をつけてやめさせたらいいのでは?と返すと、「でもね、やめさせたらかわそうじゃないですか」って。やめさせたいのかやめさせたくないのか、どっちやねん!

人の心の問題が入ってくる労務はややこしい

中国で会社を運営していく中でいろんな手続きを行うことがあり、これは以前と比べるとかなり事務的に進められるようになってきています。しかしながら、労務に関してはこれ、人の心の問題も入ってくるので、精神的にも疲れますし、事務的にサクっと進められないケースも多いと思います。今回は比較的時間のかからなかったものだけ紹介していますが、こちらの思い通りに進められなかったケースもなくはないです。行政手続きが簡素化されていく一方で、労務問題に関してはなかなかサクッと片付けられないケースも少なくなく、このあたりなかなか悩ましいですね。