フォックスコン(富士康)は、世界最大の電子機器受託生産(EMS)企業グループであり、iPhoneをはじめとする多くの電子機器の製造を手がけています。
インド生産に向けて動き出していたフォックスコン
近年、フォックスコンは中国からの脱却を図り、特にインドへの生産移管が進んでいるとされていましたが、その一方で、河南省鄭州市への投資を拡大している動きも見られます。コロナ禍の頃に中国人がインド人ワーカーに対して研修を行っているという話を聞いたこともあったのですが、状況が変わってきているのでしょうか。
鄭州市に10億元を投資したフォックスコン
フォックスコンの母体である鴻海科技集団(以下、「鴻海」)は、2023年にフォックスコンと河南省政府が提携協定を締結し、鄭州市に新たな事業本部ビルと7つのセンターを建設することを発表しました。これにより、鄭州市には新エネルギー自動車の試作センターや固体電池事業も新たに配置されることになります。鴻海によれば、この戦略的提携は、フォックスコンの「3+3」戦略に基づくものであり、「電気自動車、デジタル健康、ロボット」の3大新興産業と、「人工知能、半導体、次世代モバイル通信」の3つの新技術分野を発展させるためのものです。この戦略を推進するため、フォックスコンは鄭州市に10億元を投資し、新事業本部ビルを建設することを決定しました。
iPhone16の生産の一部がインドから中国に戻っていきている
この一連の動きは、世界的な地政学的緊張やデカップリングの中でも、中国市場の重要性を依然として重視していることを示しているといえます。そして最近の報道によれば、iPhone 16の生産の一部がインドから中国に戻ってきているとのことです。ここ最近、多くの製造業者が生産拠点をベトナムやインドに移し始め、アップルもまたサプライチェーンの分散を進めていましたが、インドでのiPhone生産が思っていたイメージ通りに進んでいなかったようですね。
インドで生産されたiPhone15は品質問題が多く発生
インドで生産されたiPhone 15は品質問題が多く発生し、ヨーロッパで返品が相次いだとのことです。このため、アップルはiPhone 16の生産を再び中国本土に戻すことを決定したようです。この動きの中でフォックスコンは新たに従業員を募集し、部品の調達を再び中国国内のサプライチェーンに依存するようになってきています。
また、鄭州にあるフォックスコンの新事業本部は2023年4月にオープンし、同年6月からはEV(電気自動車)とバッテリーの2大事業分野を中心に大規模な人材募集を開始しています。これらの新エネルギー分野は現在急速に成長しているものの、技術的な課題や資金的な負担も大きく、フォックスコンにとって新たな挑戦といえます。特に、EV分野ではブレーキ、電源回路、ステアリング、動力電池などの部品製造が重要であり、バッテリー分野では工場建設やエネルギー貯蔵、乗用車バッテリーパックの業務が進められています。
電気自動車市場に参入したフォックスコンの今後
新エネルギー車市場は今後の成長が期待されているものの、競争も激化しており、フォックスコンが固体電池市場に参入することは技術的にもビジネス的にも大きな挑戦です。固体電池技術はまだ研究開発段階にあり、多くの技術的な課題を克服する必要があります。そのため、鴻海が新エネルギー自動車試作センターと固体電池事業を鄭州に配置することは、フォックスコンにとって重要な政策決定であると同時に、技術とビジネス化の挑戦に直面することになります。
フォックスコンは自動車分野においても長年の布石を打っており、2005年には自動車ハーネス企業の安泰電業を買収し、自動車事業分野に正式に参入しています。2020年には裕隆と合弁で鴻華先進公司を設立し、Model C SUV、Model Eセダン、Model T電気バスなどの独自開発の電気自動車を発表していました。
しかしフォックスコンにとって、新しい自動車ブランドを構築するというよりは、むしろEMSとして自動車メーカーのために新エネルギー車種の生産を行う路線を選んでいます。フォックスコンの目指すところは、すべての自動車メーカーに対して、MIH(Mobility In Harmony Open EV Platform)と設計・研究開発から生産代行までの標準案を提供することです。MIHプラットフォームの目的は、技術仕様をオープンにすることで、さまざまな企業が参加できるようにし、自動車業界におけるAndroidシステムのような役割を果たすことです。この戦略により、フォックスコンは電子産業で培った経験を活かし、価格交渉力を持ちながら、電気自動車分野でもEMSの優位性を発揮することを狙っているのでしょう。
iPhoneEMSモデルを新エネルギー車EMSに応用しようとしてるフォックスコン
注目すべきは、フォックスコンの競争相手である立訊精密もODM方式で電気自動車分野に参入していることです。これに対して鴻海の劉揚偉董事長は、フォックスコンは現地化経営、ソフト・ハードウェアの設計、垂直統合、MIHオープンシステムの4つの優位性を持っており、競争相手にはこれほど整った能力を持つところはないと厳しいコメントしています。まだ俺たちの顔じゃないよと言いたいところなのでしょう。
新エネルギー自動車試作センター事業では、新エネルギー自動車のハイエンドモデル生産ラインの建設を計画しており、国内外の有名自動車ブランドに製造サービスを提供する展示プラットフォームや完成車工場を構築する予定です。これにより、鄭州をフォックスコン新エネルギー自動車部門の中核生産拠点とし、将来的な量産の基盤を整えることを目指しています。
このように、フォックスコンは鄭州で以前の携帯電話EMSモデルを新エネルギー車EMSに応用しようとしています。新エネルギー自動車試作センタープロジェクトは、自動車の性能指標を検証するための重要なステップであり、新エネルギー車EMSの一環として、フォックスコンが鄭州でさらに多くの新エネルギー自動車EMS産業チェーンを展開する可能性があります。
鄭州にて新たな「挑戦」がスタートしたフォックスコン
フォックスコンが再び鄭州と手を組み、iPhoneのEMS工場を新エネルギー車EMS工場に変えようとする動きは、まさにこのような挑戦に対する一つの答えであると言えます。同じことだけを続けること企業が存続していけばいいですが、長いスパンで見ればそういうわけにもいきせん。どこかの段階で「挑戦」しないといけない時期が来るはずです。そしていまフォックスコンは鄭州でそれをいぇろうとしています。最終的にどのような成果を上げるかは、今後の動向を見守る必要がありますが、これだけのことをやってきた会社ですから、勝算ありと踏んで動いたのだと思います。
しかし、鄭州といえば少林寺というのは今でも多くの人はそう思っているかと思いますが、経済的にはフォックスコンの貢献はかなり大きいのは間違いないでしょうね。
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