2021-07-30

駐在員による不正

出ましたよお、駐在員による不正のニュース。現地社員が不正を行うことやその対策に関する書籍や資料はよく見ますが、今回は駐在員によるものです。舞台は地方自治体の上海事務所。

海外駐在の際、住宅手当を不正に受け取っていた職員を懲戒免職 岐阜県

不正の内容は、「実際の家賃よりも高い額が記載された、うその契約書の写しを県に提出し、住宅手当の一部として合わせて約168万8千円を不正に受け取っていた」というものです。この事務所とはお付き合いもなく、あったからといってその内容を聞けるわけでもなく、以下は複数ある報道に書かれている内容を見たうえで、あくまで推測で書いていきます。

1.考えらえる手口

多くの駐在の方は住宅賃料を会社から支払っているかと思います。私が駐在員だったころも家賃は発票に基づいて会社から支払われ、給料に応じて一部負担させられ、その金額は給料から天引きされてました。今回のケースは、「実際の家賃よりも高い額が記載された、うその契約書の写しを県に提出し、住宅手当の一部として合わせて約168万8千円を不正に受け取っていた」ということですので、おそらく住宅手当は個人に支払われていたのではないかと思います。日本だと通勤交通費としてバスの定期券見合い分の現金が支給され、それを従業員が自分で買いに行くというのがありますが、家賃支払いもこのような形で行われていたのではないかと思います。

「元職員は駐在期間中、さらに家賃の安い住居へ引っ越すなどしていて、毎月およそ4万円から10万円が不正受給だったということです。」というように、不正受給金額に違いがあるということは、より多くの差額を得るためにより安いところに引っ越し、その引っ越しによる家賃減額を申告せずに家賃手当だけ従来通りに受け取っていたということなのでしょう。「今年3月、現地スタッフからの情報を基に県の調査で発覚した。」とありますが、現地スタッフがこの不正を見つけたのではなく、現地スタッフは特に何の考えもなく、住所が違っているということを単なる事務連絡で伝え、それがきっかけで発覚したのではないかと推測します。

また、「虚偽の契約書は、現地の不動産仲介業者に作成させていた。」とあるのですが、不動産仲介業者も一枚かんでいるということですね。この不動産仲介業者も差額分の一部を着服していた可能性もありますね。しかしこれ、不動産仲介業者に作成させる必要ありますかねえ。「実際の家賃よりも高い額が記載された、うその契約書の写しを県に提出」、しょせん提出するのは写し、不動産仲介業者を使わずとも契約書の写しの買い残くらいはできます。不動産仲介業者からのアドバイスの可能性もありますね。

しかし今回のこの件をきっかけにドキドキしている人、いるかもしれませんし、これをきっかけにしっかりと確認しようという動きが各事務所、法人で見られるようになるかもしれません。そういうようなことを考えている各事務所、法人などがありましたら、ぜひご相談ください。

2.他にありそうな手口

今回のように、実費見合い分を支給するという方法のすきをついて不正受給するという方法もありますが、他にも方法はあります。

(1)自分の不動産で住居手当を不正受給

自分で不動産を購入し、そこに住むまではいいのですが、その住まいを第三者から借りたことにして住宅手当を不正受給する方法ですね。これは権利証を確認すれば防ぐことができます。今は不動産が高騰しているので購入することがなかなか難しいですが、以前であればこういうケースはあったと思います。この手口、「やってる人いるよ!」と不動産屋に教えてもらったことありますから。

(2)不動産屋が水増しして請求してキックバック

例えば12,000元の家賃のマンションを15,000元で借りたことにして、その差額3,000元を不動産屋からキックバックしてもらう方法です。これはなかなか発覚しづらいと思いますが、不動産屋と信頼関係がないとなかなか難しいです。なお、この方法でキックバックをもらおうとしたところ、その不動産屋に裏切られて単に高い家賃を払わされただけに終わった話を聞いたことがあります。ダサい!

企業の不正行為が暴かれ、それに関する第三者委員会報告書なるものが結構たくさんあります。中国がらみでもあります。騙されてしまったケースは別として、意図的に不正を行ったケースを見てますと、これこれこうしたら、あるいはなになにをどうすれば、この不正は防げたかというようなことを書いてたりしますが、今回のように現場のトップが不正をしてしまう分には仕組みだけではどうにも防げないとしか思えないのですよねえ。永遠の課題かもしれません。

なお、今回のケース、元所長は不正受給金全額を返金していますが、懲戒免職としたうえに、詐欺罪で岐阜県警に刑事告訴したとのこと。現在中国で就労するためには無犯罪記録証明(犯罪経歴証明書)の提出が必要です。今後中国で就労するのは難しくなるのではないでしょうか。とおもったところで、どこまでが犯罪でいつまでその記録が証明書上に記載されるのか、個人的に気になったので調べてみました。犯罪経歴を有しないものとみなされるケースは次の(1)から(7)です。

(1) 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過しているとき。
(2) 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられられないで10年を経過しているとき。
(3) 罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過しているとき。
(4) 恩赦法(昭和22年法律第20号)の規定により大赦若しくは特赦を受け、又は復権を得たとき。
(5) 道路交通法(昭和35年法律第105号)第125条第1項に規定する反則行為に該当する行為を行った場合であって、同条第2項各号のいずれにも該当しないとき。
(6) 少年法(昭和23年法律第168号)第60条の規定により刑の言渡しを受けなかったものとみなされたとき。
(7) 刑の言渡しを受けた後に当該刑が廃止されたとき。

これを見る限り、何でもかんでも記載されるというわけではなさそうです。刑の内容にもよりますが、よほどの重罪でない限り、執行猶予期間経過後、5年ないしは10年経過後であれば証明書に記載されなさそうですね。そもそもこんなこと気にすることなく生活できるのが一番ですね!

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