2023-08-14

中国の対外国別証券投資資産推移 〜米国向けは比率減少ながら実額ベースでは増加

今回は中国の対外証券投資国別残高(外貨準備による運用を除く)の推移を見ていきましょう。折れ線グラフにしようと思ったのですが、上位陣と下位陣の差が大きく、上位4つ以外は違いが見づらかったので、普通のグラフでご覧ください。

まず、香港とアメリカ向けは他の国に比べて突出しています。香港向けは2017年(アメリカ向けを超過)と2020年(アメリカ向けの2倍以上)に大きく増加していることがわかります。アメリカ向けですが、米中デカップリングと騒がれる中でもしっかりと増やしています。伸び率は他国と比べて見劣りしますが、実額ベースで見ますと2021-2022年にかけて一番増やしています。

香港とアメリカに次ぐのがケイマン諸島とヴァージン諸島です。香港、ケイマン諸島、ヴァージン諸島は投資を経由するイメージ(香港やケイマン諸島、ヴァージン諸島を経由して中国に還流される投資も多いと考えられます)ですが、そこに所在する企業に対して証券投資の形態をとるので名前があがってくるのでしょう。

そしてイギリス。金融市場があるがゆえに上位に入っているのだと思います。

イギリスの次が日本。特に2022年には前年比45%の急増が見られました。日経平均がいい感じで上がってきていますが、これも要因の一つかもしれません。

オーストラリア向けの対外証券投資も2022年には前年比68%の大幅な増加がみられ、中国とオーストラリアはちょくちょくもめてるイメージなので、これもちょっと意外。

国際組織向けに結構な投資が行われています。国際組織について調べたところ、「中国の企業や機関が国際金融機関や多国間開発銀行に対して行う投資を指す」とのことです。これらの国際機関には、国際通貨基金(IMF)、世界銀行グループ(世界銀行や国際金融公社を含む)、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行などが含まれます。中国は国際的な影響力を高めることを狙っているのか、または国力に応じてこれらの投資を増やしているのか、詳細は明確ではありません。

さらに、アラブ向けの対外証券投資も急増しています。世界的にアラブ向けの投資が増加している可能性があります。

これらの中では相対的に小さいのですがカタールに注目。2020年以降上昇基調にありますが、ワールドカップの効果や株式市場の急成長によるものかもしれません。

あらためて上位2つの香港とアメリカを見てみましょう。まずは香港から。

香港は上述のように2020年に大きく膨らんでおり、その増加は主に株式によります。2020年に何があったのかとちょっと振り返ってみると、ロイターの記事で以下のようなコメントがありました。

・中国A株は香港のH株より平均で35%高い水準にあり、その差は1カ月前の23%から拡大している。

・米中関係の悪化を背景に、米上場の中国のインターネット関連企業が第2の上場先として香港を選んでいることも関連している。

・BOCOMインターナショナルのマネジングディレクター、ハオ・ホン氏は「資本が香港に流れている。米中関係の悪化とともに、香港は米国上場の有力中国企業の受け皿となっている」と指摘した。

なるほど。

次にアメリカ向けを見ていきましょう。2018年を除けばずっと増加していますが、2022年の増加が過去と少し違う傾向がみられます。株式投資が減少し、債券投資が増加しています。債券投資は2019年から2021年まではほぼ横ばい、同時期の株式は増加しているにもかかわらず、2022年にこれが逆転し、債券投資が増加、株式投資が減少したのです。

2022年の米国はインフレや金融引き締め、景気後退への懸念などがありましたが、この動きの中で株式よりも債券の方を良しと考えて株式から債券の移し替えたのでしょうか。

現地の報道を見ますと、対米投資の比率は減少しており、現在の国際情勢を鑑みると減少するのは致し方ないいるということが多く紹介されていますが、とはいえ実額ベースで増加しているのもまた事実。しかしながら今後は比率だけでなく実額ベースで減少するのがそう遠くないうちに見られるようになるかもしれませんね。

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