2020-11-20

中国の撤退手続きに伴う役所と銀行の対応

 いくつか手元にある中国撤退案件のうちの一件について、先日中国法人内の預金をすべて投資者である日本親会社に送金するという手続きを行うことで、手じまいすることができました。期間的に思ったよりも早かった?思ったよりも遅かった?そんなもの?かといわれると、そんなものというくらいでしょうか。中国からの撤退というと面倒だ、何かと煩わしい、というイメージがあるかと思いますが、この案件の中である中国系銀行で出くわした「なんじゃこれ」という出来事について紹介します。

 一つの法人にはいくつも口座があります。日系企業であれば日系銀行に口座を持っているところも多いですし、中国系銀行にだって口座を持っているのはよくある話です。そして、通貨種別として外貨もあれば人民元もあります。人民元口座には人民元基本口座、人民元一般口座、納税用口座(いまや人民元基本口座からの引き落としが可能)、社会保険専用口座(社会保険引き落とし用口座)といった種類があり、人民元基本口座と人民元一般口座の違いとして、基本口座で現金の出し入れができるか否かが大きな違いといえます。あと、人民元基本口座という名前からして人民元のもっともコアとなる口座といえ、これを開設して初めてほかの人民元口座を開設することができるようになってます。

 さて、銀行口座が複数行にまたがっているため、まずは預金の一行への集約を図ることにしました。清算代わり金の送金銀行を一本化するためです。日系銀行を送金元にすることにしたので、まず中国地場銀行の預金を日系銀行に移すという作業を段取りしました。なお、会社を清算するわけですから銀行口座自体をクローズするのですが、この中国系銀行は口座クローズに際して法定代表人の身分証明(今回の場合は代表者である日本人のパスポート)が必要であると一向に譲りません。コロナのこんな時期にわざわざ代表者が来るはずもないし、そもそもそんな大事なものを郵送してくるのは普通に嫌ですよね。結局、口座内の残額を全部出金した後は口座をクローズせずに、そのまま放置するという方針ですすめることにしました。銀行にとっては存在がなくなった会社の口座がずっと残り続けるので管理上面倒だと思うのですが、それがいいということなのでその方針で進めることにしたわけです。

 さらに調べたところ、この会社の社会保険専用口座には少しばかりの預金があり、この資金も移し替えて一本化しようとしました。社会保険局に出向いて照会しましたところ、社会保険口座の現金出金はできず、人民元基本口座への振り替えしかできないとのこと。そして、その振替にあたっては社会保険登記の抹消をしないといけないとのこと。そして、社会保険登記の抹消にあたっては営業許可証の抹消をしないといけないとのこと。つまり、順序としてはこうなります。

①営業許可証抹消

②社会保険登記抹消

③社会保険口座残預金の人民元基本口座への振り替え

④人民元基本口座内資金をすべて日系銀行の口座に移動

⑤日系銀行より全ての預金種別にある残高を株主に送金

 営業許可証が抹消されたということは、法人という実態がなくなったといえます。清算代わり金の送金は明確なルールがあり、必要書類さえそろえれば送金が可能です。しかし、今回は清算代わり金の送金元を一本化するために、中国系銀行にある預金(このケースでは人民元基本口座)を日系銀行にある預金口座の移し替えるという、いわば清算代わり金送金の一つ手前のステップです。そこで一つ疑問がわきます。「法人としての実態がなくなった口座にある資金を果たして動かすことができるのか?」結構な金額が残っているので、万が一これが動かせなくなると大変です。この疑問については再三再四、本当に3~4回くらい電話ではなく対面でその中国系銀行に確認しましたが、「よほど長期間放置するのならともかく、資金を動かすことは可能」という回答でした。これで安心して手続きを進めることができます。

 さて、営業許可証の抹消を終え、その足で社会保険登記の抹消を行い、さらにその足で社会保険専用口座の人民元基本口座への資金移動の手続きを行いました。資金移動には2週間を要するとのこと。そして、2週間後にその資金移動を完了したことが確認できました。これをもって、中国系銀行にある人民元基本口座内の預金を日系銀行にある預金口座に振り込みをしに行ったところで事件が起こりました。なんと、「営業許可証が抹消されている会社の口座なので、入金はできるけど出金や振り込みはできない」と言われてしまいました。おいおい!こういうことを心配していたから散々確認したではないか!

 トラブルは窓口で起きたので、確認した相手を探し出してどういうことかを問いただしました。オリンピックは4年に1度の開催ですが、それこそ4年に1回くらいしかないようなテンションでの怒りモードでその中国系銀行の担当者に対して怒鳴り散らしたわけであります。

 「営業許可証抹消後でも資金を動かせるかどうか、散々確認したよね?なにをいまさら動かせないとか言ってくるわけ?」

 「営業許可証を抹消しているから動かせないのです」

 「営業許可証を抹消した後は動かせないのなら最初から言わないとだめなんじゃないの?散々確認したよね?覚えてるよね?こっちは動かせるという前提でずっと動いてきたのに、どうしてくれる?口座にある200万元は動かせないままずっと放置しろっていうこと?どうしてくれるの?」

 結構な時間すったもんだしました。そして、担当者からの妥協案として出てきたのがこれ。

 「口座内の資金を動かすためには口座をクローズするしかない。ただし、これは特別な取り扱いなので、特別承認をもらう必要があり、1週間ほど待ってほしい」

 おいおい、結局パスポートなしで口座のクローズってできるのかよ。だったら最初からそう言ってほしかったなあ。だったらっこんな順番で物事を進めなかったかもしれないのに。いまさらしょうがない。人民元基本口座は一番最後にクローズするものなので、順番としてはおかしいが、こっちとしてはそれはどうでもいい話。これに乗っかるしかない。

 その後、さすがに約束通り人民元基本口座のクローズ、そして口座内資金全額振替を行うことができました。口座内資金を動かせないといわれたときダメならだめで何かしら方法はあるだろうと思い、不思議と焦ることはありませんでした。しかし、怒りは抑えられなかったなあ。

 こんな社会保険専用口座ですが、なんとつい最近ルール変更があり、11月1日以降社会保険料の引き落としは社会保険専用口座からの引き落としでなくともよくなったとのこと。これがもう数か月早く実施されていたらこんなトラブルにならなかったのに。これにより、社会保険専用口座の資金の移し替えも普通に可能になりました。まだほかにも撤退案件が手元にあるのですが、もうこんなトラブルはこりごりなので早速社会保険口座内資金の振り替え手続きを行い、なんとこれは2営業日で着金。ついこの間までの社会保険口座からの資金移動に2週間必要っていったい何だったのか。いやいや、便利になったぶん文句を言うのはやめよう。

 しかし、2020年にもなってまだこんな役所間の調整ができていないことによる面倒が起こるとは。油断大敵。今回は散々確認しておいたから中国系銀行も比較的あっさり折れたのだと思います。念押ししてなかったらどうなっていただろうか。念押ししといてよかったぁ。

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