2022-04-27

上海ロックダウンさなかでの生産本格再開にあたっての障害

4月16日に発表されたホワイトリストに基づき666社が再稼働を認められ、10日が経過しました。この666社のうちの70%が再稼働しているとのことですが、これはあくまではじめの一歩にすぎません。現場でどのような問題が起こっているでしょうかについて見ていきます。

まず、生産再開を行うための防疫措置の実施が企業の業務の焦点となっています。再稼働のガイドラインの中で、その実施責任は企業にあること、工場内のゾーニング・分類管理を実施すること、従業員の管理を強化すること、物流管理と防疫資材の備蓄を強化すること、コンティンジェンシープラン雇用保障をしっかり行うことがうたわれています。

具体的には、工場内の各エリアの物理的な分離、職場と住居の「二点一線」管理の実施、全従業員が指定された持ち場で勤務・滞在し、異なるエリアにいる従業員との直接的接触を最小限にすること、各エリアの管理強化によるリスクポイントの排除、日々の健康モニタリングと全従業員の登録、検査によるスクリーニングの順守(朝は抗原検査、夜は核酸検査と1日2回の検査)などが指針として盛り込まれています。 これら以外にも、生産再開の具体的な運営プロセスにおいて、閉鎖された人員、物流の滞り、資金の停滞、不十分な支援といったボトルネックがまだ残っています。また、ホワイトリスト企業でも区がなかなか認めないという問題もあるようです。それでは、実際に生産再開するにあたっての主な問題についていくつか見ていきましょう。

1.従業員手配

従業員手配についてですが、一部の企業は生産再開の許可を受け、従業員が7日間その住む住居棟内に陽性例がなく、本人の48時間以内のPCRが陰性という条件を満たし、区経済委員会の要請書があるにもかかわらず、一部の街道や鎮の中には、上からの指示がない、会社がホワイトリストに該当していない(ホワイトリストに該当しない企業でも稼働を認められたケースがあるようです)などいう理由で、従業員を小区から解放せず、工場に行くことができない事態が発生しています。

2.PCR検査

次にPCR検査の問題。生産再開する企業は、午前中に抗原検査、午後に核酸PCR検査を行う必要があるため、企業は近くの検査会場を探し出してそこで行うのですが、検査のために外出すると、人が集まる場所に行くことになるために感染リスクが生じます。工場に来てもらう場合は相応のコスト(訪問費3,000元、PCR1検査40元)が発生するという問題があります。かりに従業員が100人いれば毎日7,000元ものコストが発生してしまいます。これが1か月(営業日22にと仮定)続くと一か月で約15万元ものコストが発生してしまいます。となると現実的には検査会場での検査を選択することになり、感染リスクから逃れられないということになります。そして、感染者が出ればこれは全て企業の責任ということになるのです。なんでも企業の責任にされるのはたまらないということで、企業側が生産再開を拒否しているところもあるようです。

3.中小企業

ホワイトリストに載っていない中小企業もサプライチェーンの中で重要な位置づけを占めている工場はあります。ここから調達できないと生産ができないということで、別のところから調達するようになることも十分に考えられます。発注側から見た場合、新たな供給先探し、受注側から見た場合、工場稼働を止められている間に代替先を見つけられスイッチされてしまう恐怖、そしてその後業務を取り返さなければならないという問題があります。受注側の中小企業は業務を行えない以上収入はなく、支出項目だけはなくならないので、資金繰りに影響が生じます。

上海銀行保険監督管理局は中小企業支援強化に関する通知を出しており、借入返済の緩和を打ち出していますが、借入返済の免除ではなくあくまで緩和(返済猶予)されているにすぎず、利払いはやはり継続しなければなりません。

以上のような縛りの中で、サプライチェーンを潤滑に回していくための動きが模索されています。長江デルタ三省一市(江蘇・浙江・安徽・上海)が各々の「ホワイトリスト」の共有と相互承認を促進し、長江デルタ地域の主要サプライチェーンとその支援企業の「ホワイトリストプール」の設立を試験的に促進させ、この地域の全産業チェーンがともに生産再開する方向にもっていこうという動きがあります。これが実現すれば長江デルタという地域限定とはいえ、物流や供給の面においてかなりの問題が解決できることが期待されます。

また、上海市経済情報委員会によると、コロナ対策を行いつつ、引き続き企業の生産再開範囲を拡大することを目指すと発言しています。

しかし、「ホワイトリストプール」しかり、生産再開範囲拡大しかり、これらが、果たしてどこまで実現するでしょうか。中国の住まいの多くが小区(日本の団地に近い概念)と呼ばれるもので、多くの棟が一つのエリアにまとまっています。今のルールだとその小区というエリアが大きかろうが小さかろうが(ちなみにわたしのいる小区には35棟あり、それぞれが16フロア、各フロア5部屋、総部屋数が2,800あります)、つまりその母数が500人だろうが5,000人だろうが、一人でも感染者が出れば14日間はその小区から出られないというルールがあり、このルールにかなりこだわった運用が継続されています。せっかく生産を再開しても1人、たった一人でも陽性者が出ればリセットがかかってしまいます。根本的にはこの厳格すぎるルールを見直していくしかないように思うのですが、今のところその兆しは見られておらず、Withコロナに関する議論も行われておらず、むしろ議論することすら許されない雰囲気があります。コロナ対策はもちろん大事、しかし経済を回していくこともものすごく大事。どこかでルールの見直しを行うターニングポイントがあればいいのですが。

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