2019-08-26

上海高島屋の存続の裏に何があったのか!?

6月25日付で2か月後の8月25日をもって閉店すると発表した上海高島屋が、なんと閉店を予定していた日の二日前の8月23日に突如として営業を継続すると発表しました。消費者としては喜ぶ人も多かったと思いますが、テナント側からみると振り回された感が否めないと思います。

上海高島屋閉店の一方で他の日系・日式百貨店はどんな状況だろうか

存続を熱望していたテナントの場合、営業継続の知らせを聞いてうれしかったと思いますが、閉店を見越して次の行動をすでに開始していたテナントの場合、いろんな問題があります。まず、高島屋店が閉店することから、他の場所をすでに契約したようなケースです。当然保証金も発生すれば内装費用も発生します。上海高島屋店分について補償が仮にもらえるとしても、新店舗探しや新たな内装はかなり業務量としては大きいのではないでしょうか。

次に、在庫処分の問題です。なにせ閉店せざるを得ないわけですから、在庫処分のために採算度外視で売り切ろうとしたテナントも多かったでしょう。閉店しないということは結果として在庫処分なんてする必要がなかったといえるでしょう。

また、人員整理の問題もあります。店舗が閉店するわけですから従業員を抱える必要もなくなります。他店に回す余裕があればいいのですが、そうでないところはその社員との契約を打ち切らざるを得ないでしょう。それに伴い発生する経済補償金、テナントにとっては大きな負担のはずです。

もちろん、上海高島屋も営業を継続することでこの程度のことは予想していたでしょうから、何らかの補償をするのでしょうが、それにしてもテナント側の振り回され感は否めないでしょう。

さて、そもそもなぜ上海高島屋は継続することになったのでしょうか。高島屋の公式発表を見ますと、次のようなものとなっております。

2019 年 6 月 25 日開催の取締役会において、上海高島屋百貨有限公司が業態間競争の激化や隣地開発の遅延と変更による事業採算性の悪化見通しのため、8 月 25 日の上海高島屋百貨有限公司株主会決議を前提に同社の清算を決議いたしました。しかしながら、その後、営業継続の条件について、家主からの支援及び上海市・長寧区の協力により、事業採算性が大きく高まる目途がたったため、清算を中止することを決議いたしました。これに伴い、「上海高島屋」は当初閉店を予定しておりました 8 月 25 日以降も営業を継続いたします。

これに関して現地メディアでどのように見立てられているかを調べてみました。それによりますと、撤退するというのは相当な経営判断であり、それがひっくり返るのは今までの経営不振を立ち直らせる何かがあった、これに伴い今後の経営にめどが立てられるようになった、というものです。普通に考えればそうでしょう。そして、みんなが知りたいのはその具体的な内容かと思います。

ポイントは「家主からの支援及び上海市・長寧区の協力」という箇所かと思います。そして、これを普通に推測しますと家賃の減免や補助金をもらうことなのではないかと思われます。現地メディアの報道でも、政府が高島屋の物件オーナーとの間を取り持って、家賃を大幅に減額できたのではないかとみています。そして、これは日本側の公式発表と内容も一致します。具体的にどの程度の減免を受けられるのかまではわからないのですが、2018年度の上海高島屋の赤字が6800万元であり、すくなくとも数千万元程度は減免を受けられるのではないかと紹介されています。そして、物件オーナーは上海地産(集団)有限公司であり、この会社の100%株主が上海市国有資産監督管理委員会であります。国有資産監督管理委員会は国有企業を管理・監督する組織であり、要するにこれも政府と読み替えてもいいでしょう。ということは、表面的には家賃の減免であり、企業背景を見ると形を変えた補助金ともいえます。ただし、上海地産という会社もメディア報道で出ているだけで、本当にここなのかという確信は持てません。ということで、高島屋の有価証券報告書を見てみました。

上海高島屋の賃借先は上海古北(集団)有限公司となっています。なぜ現地報道では上海地産集団という名前が出てきたのでしょうか。この2社はどんな関係なのでしょうか。資本構造を調べてみました。

これを見ると上海古北集団は上海地産集団の傘下にあることがわかるので、中国メディアが上海地産集団と報道したのも分かります。とにかく、この資本構造を見ても分かるように、頂点にあるのは国有資産監督管理委員会、すなわち政府です。そういうことですので、高島屋のプレスリリースにあります「家主からの支援及び上海市・長寧区の協力」というのは上海市そのものからの支援と読み替えることもできるでしょう。

経営がそれほど順調ではなかったとはいえ上海高島屋というちょっとした規模の箱モノがなくなるのを上海市側が恐れたのでしょうか。あるいは、上海高島屋の後釜に入ろうとする企業が名乗り出なかった、あるいは条件が折り合わなかったのでしょうか。またそのうち記事になるかもしれないですね。

家賃が安くなるのは非常に助かりますが、売上を増やすのは自社で頑張らないといけない。実はこのあたりに対する味方は厳しい論調が少なくありません。これを成し遂げて初めて撤退するのをやめる価値があると言えるでしょう。

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